「さ、散開! 散開して各自反撃!」




 ラドカーンが吠えたが、クレアを含めた銃声のせいで簡単に消されてしまう。

ホームに飛ばされた火炎瓶が割れると同時に、中に入っていたガソリンがまたたく間に燃え広がり、

まるで劇場の舞台のように明々と照らし出されていく。




「みんな、雑魚に構うな! ジュラだ! ジュラを倒せ!」




 エステルがそう叫ぶと、太矢をジュラに向けて飛来していく。

それが呆然と立ち尽くしていた神父の頬を掠めたのだから、クレアとしては一瞬ひやっとした。




! ボーッとしないで、何とかしなさい!)

(分かってますって!)




「……そ、そうだ、鉄砲(てっぽー)! 私、どこかに鉄砲(てっぽー)をしまって……」

「伏せていてください、神父様」




 あちこち探り始めた神父の頭をジュラが押し下げると、

インバネスを闘牛しのように次々と飛来してくる太矢を片端から叩き落していく。

それを見て、クレアは敵とは言えど少し安心した。

これなら、しばらくの間はまだ大丈夫だろう。



 だがパルチザン側から見れば、危機的状況に陥っていた。

最初の混乱がおさまった市警軍の兵士達は、それぞれの遮蔽物の陰に隠れては撃ち返し始め、

飛ばされた火炎瓶が空中で撃ち倒され、逆に被害に遭ってしまっていたのだった。




「どうやら敵は少数のようだ。10人ほど左翼に迂回させて、包囲したまえ」

「はっ。……イクス少佐! 左翼迂回、包囲だ!」

了解(ポジティブ)




(やばい!)




 ラドカーンの指示に、真っ先に反応したのはクレアだった。

そしてその方向へ移動し、兵士に向かって引き金を一気に引き始めた。




「うわーっ!」




 倒れこむ兵士をよそに、クレアはラドカーンの指示を受けた少佐に向けて銃口を向けた。

そして一気に撃ち込み、相手の手足を攻撃する――。




「……0.54秒遅い」




 だが引き金を引いたのは、クレアより小柄な少佐の方が先だった。

一気に撃ち込まれた銃弾を何とかかわすと、クレアは左手に持っていた銃を一度懐に戻し、

右手に持っていた銃の天辺にあるレバーを中心に合わせ、一気に撃ち放った。

それは先ほどとは違う、強装弾(フルロード)並みの力で列車に穴を空けていった。

が、対象物にはなかなか当たらなく、逆にどんどん攻撃される一方だった。




「トレス! あなた、本気で攻撃しているの!?」




 彼には敵味方の区別がないのだろうか。

クレアは一瞬そう思ったのだが、今は何とかして、彼の動きを止めるしかない。



 これは、少し本気で行った方がいいのかもしれない。

そう思ったクレアは、右手に持っていた銃の天辺を元に戻すと、

懐にしまっておいた銃を左手で取り出し、しっかりと握った。

そして相手の少佐が撃ち始めたのと同時に、引き金を引きながら、

まるで華麗にステップを踏んでいるように攻撃をして来たのだった。

その攻撃に、後からやって来た兵士達が次々と倒れ、少佐が撃った銃弾をすべて弾き返し、

相手の腕を貫いでいった……ようにも見えた。




『わが主よ、“ガンスリンガー”から伝言が届いた。――この戦いに勝ち目はない上、

ナイトロード神父もすぐに釈放されると思われる。卿はパルチザンのメンバーを連れて、

すぐに退散しろ――だとさ』

「その前に、本気で攻撃するのをやめさせてよ、ザグリー!」

『そのことなんだけど、一応他の市警軍に察知されては困るから、本気で攻撃しているって、

さっき言っていたぜ』

「そんなー!!」




 耳元から聞こえる声に答えながら、クレアは引き金を引き続けた。

確かに、彼の言うことは間違ってはいないが、

100パーセント中100パーセントの力で攻撃されたら、普通の人間だったら逃げるのは不可能だ。

軍人だったクレアでも、力を使わないで(・・・・・・・)彼と交戦するのは少し抵抗がある。

怪我をしていないのが奇跡に近いぐらいだ。




 その危機的ピンチに立たされている時、耳元に何かを知らせるかのように指笛が聞こえた。

それはまさに、エステルから放たれるもので、退散命令であった。

合図に従うように、パルチザンは一斉に後退を始め、闇の中へと消えていく。

それを邪魔するかのように、ラドカーンが銃口を上げたのが見え、

クレアがすぐそちらへ向かって動こうとした時――。




「あ、あったあ!」




神父の間抜けな喚声があがったのだった。




(クレアさん! お待たせしました! これで逃げて下さい!)




「はっはっは、これさえあれば百人力! 逃がしませんよ、テロリストの皆さん……、あれ?」




 途中、クレアにしか届かない声を発しながらも、神父があぶなっかしい手付きで引き金を引く。

が、もふっと間の抜けた音とともに、盛大な白煙があがっていったのだ。

どうやら、断層内の火薬が湿っていたらしく、もうもうと当たりを真っ白と化し、

一瞬にして視界を遮った。




(さっ、早く逃げて下さい! 私は大丈夫ですから!!)

(……本当に、大丈夫でしょうね?)

(ええ。さっ、早く!)

(分かったわ。……ありがとう、




「……今のうちに、全員退散します! 動けますか!?」

「あ、ああ、大丈夫だ。おい、みんな、行くぞ!!」




 ここはとりあえず、「仲間」の言うことを聞いた方がいい。

クレアはその場に残りたい気持ちを押さえながら、まだ動ける“パルチザン”に指示を送り、

ホームを離れるように走り出した。

途中、市警軍達が攻撃を仕掛けてきたが、短機関銃を垂直に上げ、引き金を引きながら走っていったため、

特に怪我をすることなく、その場から離れていったのだった。











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