「あなたに1つ、頼みがある」
領土に戻ろうとした時、後方を歩いていた女性を呼び止める声は真剣だった。
「私の領土に、あるものを設置して欲しい。これが、その資料だ。勿論、許可は下りている」
「あるもの?」
手渡された資料に、相手は首を傾げる。それは内容を確認するなり、疑惑の色へと変わっていった。
場所や大きさなどではない。その設置理由に疑問を持ったのだ。
「……これをつけて、どうすると言うの?」
「チュニスが落ちた時、奴らのものになるなどごめんだから、自分達の手で葬ることに決定した」
「自分達の市民を巻き込んでもいいと?」
「起動させる前に、避難させる」
黒メッシュの入った茶髪の女性の不安とは逆に、相手はすでに決心を固めたかのように、
その不思議な色の瞳を見つめていた。
それに負けたのか、肩につくかつかないかぐらいの髪を耳にかける仕草をし、
大きくため息をついた。
「彼女は……、賛成したのね?」
「勿論だ。そうじゃなかったら、こんな案をあなたに提示していない」
「なら、私はその指示に従わなくてはならない、ということになるわね。分かったわ。
完成案がまとまったら、すぐに連絡する」
「ありがとう。……ああ、それともう1つ」
つい最近復旧したばかりの飛行船に乗り込もうとしたが、
以前から聞きたいことがあり、後方にいる女性に声をかける。
「もしこれが彼女の指示じゃなかったら、どうするつもりだった?」
「彼女の許可を得るわ」
「もし拒否したら?」
「この件はなかったことにして、きれいさっぱり忘れるわ」
予想通りの答えに、彼女は心の中でため息を漏らす。
そんな様子を知ってか知らずか、見送る相手は再び口を開いた。
「彼女の意見は絶対よ。だから何があろうと、私は彼女の指示以外は絶対に従わない。
……そう、決めているから」
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