一目に寄らない場所に船を止めると、4人はその近くにあるホテルに身を潜めることにした。



 チェックインを済ませると、

アベルはカテリーナに連絡を取る手段を探すといって、与えられた部屋に篭った。

本当は重傷を負っている体を少しでも休ませるためだったのだが、

エステルとイオンに気づかれたくないために、このような理由になったのだった。



 それからしばらくして、イオンの怪我の様子を見終えたエステルとは、彼を休ませるために部屋を出た。

外を見れば、すでに太陽が半分ほど姿を隠していた。




「あの分だと、1週間後ぐらいには無事に塞がりそうね」

「そうですか。なら、いいのですが……」




 エステルの心配の先がイオンだけでないことを、はすぐに察した。

それを表すかのように、彼女はに問い始めた。




「あの、さん」

「何?」

「……ナイトロード神父って、いつもああなんですか?」

「ああって……、どういう意味?」




 が首を傾げながら聞くと、エステルは自分に与えられた部屋にを連れていき、

邪魔が入らないかのように、扉に鍵をかけた。

よっぽど誰にも聞かれたくないのであろう。




「あたし、イシュトヴァーンで……、ジュラの城で見たんです」

「見たって……、何を?」

「それは神父さまが、その、何て言ったらいいんだろう……。とにかく、神父さまがすごい力を使って、

ジュラを倒したところを見たんです」




 エステルの言いたいことはすぐに分かった。

アベルから直接聞いたわけではないが、彼の身に起こったことは自然と彼女にも伝わって来るので、

特に報告なくても把握出来てしまうのだった。




「あの力さえあれば大丈夫。ずっとそう思っていました。けど神父様はそれをせず、いつもふざけてばかりな上に、

手を抜いてばかりで……。まるで、あの時のことが嘘みたいに頼りなくて……」




 ベッドに座っているエステルの掌が強く握られている。

下手したら、食い込んだ爪から出血を起こしてしまいそうだった。

だからそれを止めるために、は彼女に話し始めた。




「……人にはね、見せていい部分といけない部分があるの」




 はっとしたように見上げた先にいるは、少しだけ悲しそうに見えた。




「あなたにもきっと、見られたくない姿があるはずだし、私にだってある。勿論、アベルにもね。

たぶんだけど、彼はその姿を、あまり他人に見せたくないんじゃないかしら?」

「あんなに強いのに、ですか? 私には、そうは思えませんけど」

「あのね、エステル。強ければいいという問題じゃ……」

「だって、本気出せば、あんなに凄い人なんですよ!? それなのに、見られたくないだなんて、

おかしいじゃないですか!!」




 自分が言っていることは間違ってないとでも言うかのように、エステルはに食って掛かっていく。

彼女の気持ちも分かる上に、アベルの気持ちも分かるにとって、

切り抜ける手段が何1つ浮かんでこなかった。




「あれさえ使えば、もっと物事はうまく進んでいたはずです。力を出し惜しみしているようにしか見えないんです。

さん、教えて下さい。ナイトロード神父はどうして……」

「……彼は出し惜しみなんてしていないわ」




 言葉を遮るかのように言い放つの目が、

自然と鋭くなっていたことに、エステルは気づいたらしい。

一瞬ビクッとして、彼女の顔を見つめる。




「私には、彼が力を出し惜しみしているとは思っていない。確かにアホで馬鹿で間抜けだけど、

それが時に功を奏する時があるし、頭の回転の速さは、誰よりも私がよく分かっているわ」




 いざという時に助けになる人。

それがアベルなのだということを、はよく分かっていた。

深い溝にはまっても、そこから救い出せる人物は彼しかいない。

それは長年一緒にいる彼女だから言えることだった。




「エステル、あなたはアベルの否定的な部分ばかり見てしまって、いいところを見逃してしまっている。

もっと視野を広げれば、彼のいいところも見えて来るはずよ」




 ゆっくりとその場から立ち上がり、エステルの肩をそっと叩き、ゆっくりと歩き出す。

それはまるで、頭を冷やせと言っているようで、少しだけ不満に感じた。




「……どうしてそこまでして、ナイトロード神父を庇うんですか?」

「え?」




 突然言われた言葉に、扉へ向かって歩く足が止まる。




「どうして、どうしてそこまで神父さまを心配するんですか? それに、確かにさんは強いですし、

すごく心強いですけど、何か引っかかるんです。特に神父さまのことになると、すぐに表情が変わってしまいます」

「それは当然よ。彼は私の同僚であって……」

「そんな簡単な理由だったら、ここまで真剣になるわけがありません! どうしてそんなに、

神父さまを庇うんですか!? 頼りないことには変わりないじゃないですか!!」




 エステルの言っている意味がよく分からない。

同僚を庇うのは当たり前ではないのか。

この時のはそう思っていた。

だがよく考えてみれば、

はアベルのことになると他人事ではいられなくなっていたのは確かだった。




「……誰だって、同僚の悪口を言われたら無機になるものよ、エステル」




 本人は悪口を言っているとはこれっぽっちも感じていなかったかもしれないが、

この時のはこう言うしかなかった。

そして再び、扉に向かって歩き始めた。




「今日はいろいろあったからゆっくり休みなさい。これからまた、忙しくなるわよ」






 はそれだけエステルに伝えると、静かにその場を去っていったのだった。











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