<我々は教皇庁特務警察だ! 貴様らを、警察用車両窃盗、ならびに夜間外出禁止令違反の

現行犯で逮捕する! 車を路肩に寄せて止まれ!>

「ただの違反で、そんなでかい車で追いかけるわけないでしょう!!」




 の叫びが聞こえたかどうかは分からないが、それぐらい彼女は相手の行動に腹を立てていた。

確かに、メルカバをかっぱらったのは窃盗であるが、ここまでして追いかける必要はどこにもないはずだ。

車内に誰が乗っているかが分かっているからこそ、

この大型トラックサイズの装甲車を乗り回しているのだ。




『もうじき細い路地が見えてくるわ。そこを右折して、相手を攻撃するのよ』

「いいアドバイスをありがとう、ステイジア。……アベル」

(聞こえてましたよ、さん。私も、同じことを考えていました)




 そうだ。

アベルの手には地図があったのだから、すぐに対応出来て当たり前だ。

なら、あとはエステルがうまく右折してくれればいいだけの話だ。




(……少し離れてた方が無難かも)




 スピードを若干緩めて、車間距離を離す。

同僚の――それも調査員が運転する車の事故に巻き込まれて負傷するのは、

あまりにもみっともなさ過ぎると思ったからだ。

アベルには申し訳ないが、ここは1つ、自分だけでも生き残る道を選んだ方がいい。



 そして次の瞬間、は後退してよかったとしみじみ実感するようなことが目の前で起こった。

メルカバの前輪がロックされ、フラメンコみたいにくるくると路上で回転しながら、ほとんど鋭角に右折したのだ。

車体が慣性の法則に従い、いつ横転してもおかしくないと言わんばかりに、

片輪のまま路地を走り始めたのだ。




(すんごく怖いことしているわね、エステル……)




 そう思いながら、も同じ箇所で右折すると、

前方を走っていたメルカバが無事に体勢を取り戻していたので、

路地に置き去りにされた左側後部席の扉のことがあったが、とりあえず安心する。

そして道を塞ぐように垂直に停まり、左側に収めてある短機関銃(サブ・マシンガン)を取りだし、

天辺にあるレバーを手前まで引き、引き金を引いた。




 狭い路地に入ったことで追いかけられなくなった六輪重装甲車が、

道の出入り口を塞ぐように停まっている。

どうやら、前に進めなくなり、他の場所にいる仲間と交信しているのであろう。

周りで人が動いている音もしていた。




 目の前にいる堅物に向けた銃口の先は、すでに何かを貯めたかのように大きく光っていた。

直径30センチぐらいはあるであろうか。




「そんなでかいので追っかける方がいけないのだから、悪く思わないでね!」




 その言葉と同時に放たれた光が、真っ直ぐ飛んでいき、目標物を確実に捕らえた。

そして轟音と共に、大きな炎に包まれて燃え始めたのだった。




「まあ、特に危害を加えてないから、大丈夫よね」

『発射前に、防御シールドを貼っておきました。問題ありません、我が主よ』




 防御・修正プログラム「フェリス」が直前に防御シールドを貼ったのは、

相手が同じ教皇庁の者だからというのがあるからだろう。

予想通りの応対に、もさすがとしか言いようがなかった。




「さて、急いでエステル達に追いつかないと……」




 再びハンドルを握り、エステル達が去った後を追いかけるかのように走り始める。

路地を抜け、約1キロほど先にいるの軽四輪駆動車の姿を発見した、

まさにその時――。



 前方から、超高速回転する高周波ホイールが飛び込んできたのだ。




「エステル、危ない!!」




 届くはずもないのに叫ぶの声に反応してか、

先を走るメルカバが直角にターンし、何とかそれを避ける。

しかし、手ひどい酷使についにタイヤが絶え切れなくなり、

甲高い断末魔の叫びを残してバーストしたのだった。




「……やばい!」




 自動二輪車(モーター・サイクル)に乗っているとしては、この高周波ホイールを避けるのは簡単なことだったが

(ただ少し左にずれればいいだけのことなので)、相手に起こった代償はかなり大きかった。

倉庫の壁に激突して、ようやく停まった軽四輪駆動車に接近しようと方向を転換すると、

今まで押さえていたスピードを一気に上げた。




 目を少し大きく見開き、目の前の状況を把握する。

エステルは意識があるらしく、横で気を失っているイオンに声をかけていた。

傷口が開いてしまったのか、酷い出血が見られる。

その後方には、後部座席にいたはずのアベルが投げ出されていて、一向に動こうとしない。




(アベル! アベル、大丈夫なの!?)




 声をかけながら、はさらにスピードを上げた。

一刻も早く、相手の安否を確認しなくては。

の顔に、だんだん焦りの色が見え始めていた。






そしてそれに追い討ちをかけるかのように、

彼女が到着するよりも、攻撃を仕掛けた相手の方が到着が先になってしまった。






「また会えたな、吸血鬼(ヴァンパイア)ども!」











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