(さらに最強になっているんじゃないのよ、この男は!)




 異端審問局との接点があったにとって、このペテロの登場は予想外だった。

戦騎士の聖衣(ガーヴ・オヴ・ロード)”の防御力や強化人間の生命力を計算しても、

先ほど戦車砲の直撃を喰らって、こんなにスムーズに歩くことは不可能なはずだからだ。




「ふっ、フランチェスコ様のおっしゃった通り、やはりスフォルツァめは吸血鬼(ヴァンパイア)どもとつるんでおったのだな! 

いやしくも教会をすべる身にありながら、何と罰当たりな女よ!」

「――ト、トレス君、止めて下さい!」




 アベルが制止した先には、ペテロの頭部にM13を向けたトレスの姿があり、

はその間に、イオンのもとへと駆け寄った。

望んではいないが、次の展開を読み、彼の防御役に回ったのだ。

その間に、アベルはしっかりとトレスの腕に縋り付いている。




「離せ、ナイトロード神父。メンフィス伯を見られた以上、その男を生かして返すわけにはいかん。

――ここで消去(デリート)する」




(やっぱり)




「はッ! 某を消去する? 面白い! 確か、トレス・イクス神父と言ったな? よかろう、

やれるものなら、やってみるがいいわっ!」

「ちょっと、2人とも、やめなさい! ここはどこだと思っているのよ!!」

「ここがどこであろうと関係ない!!」




 の弁解を無視して、ペテロが持つ鎚矛が甲高い叫び声をあげた。

その姿に、は背中に嫌なものが流れるのを感じていた。




「このペテロ、聖なる戦いのためなとあれば、逃げも隠れもせぬ! いざ、尋常に勝負してく――」




 と、ペテロがそこまでいいかけた時、

直径13ミリの銃弾が、体格に割には細い顔を掠めて背後の壁に大穴を穿つ。

ペテロは唖然としたように口を開け、は突然の同僚の攻撃に焦りの色を見せ始めた。




「ひ、卑怯な! 貴様、それでも人間か! 名誉ある騎士が名乗り上げている最中に――」

「名誉ある騎士なら、武器を下ろしなさい!」

「射角0.02修正。第2段発射」

「あなたも攻撃を止めなさい、トレス!! 私の愛娘を撃ち落とす気なの!?」

「“愛娘”? “アイアンメイデンU”は空中戦艦だ。人間ではない」

「そんなに真面目に受け取らないでよ、この無表情無頓着無鉄砲神父!!」




 双方に突っ込みを入れながら、はイオンの護りに勤めようと背後へ隠す。

その間に、すがりつくアベルを不恰好なアクセサリーのようにぶら下げたまま、

トレスが再びM13の引き金を引いた。




(アベル、止める気があったら、ちゃんと止めなさい!)

(む、無理ですって、さん! トレス君、力強すぎです!)

(そこを何とかするのが同僚の勤めでしょう!!)




 の突っ込みは止まることなく、アベルにも注がれていく。

一方ペテロは、トレスの2発目の攻撃によって、怒りが増幅していった。




「う、うおうっ! また撃ったな! おのれ、貴様、人の話も聞かずに撃ってくるとは、何と罰当たりが!」

「ト、トレス君、やめてください! まず彼と話を――」

「無用だ。それよりナイトロード神父、これ以上邪魔するなら、卿も排除する。その手を離せ」

「そんなことしたら、私があなたを解体するわよ、トレス!!」




 怒るペテロ、とりすがるアベル、引き金を引くトレス、そして半分キレ気味の

かみ合っていない会話を交わす。

その間にも、壁にはトレスによって放たれた拳銃弾と、ペテロが振り回す鎚矛によって、

次々と穴が空けられていた。




<お、お2人ともおやめになって! 艦橋で喧嘩なんてしないで! やるなら、

船の外でやって下さいまし!>

「そうよ! これ以上、私の愛娘に穴を空けないで!!」




 真っ青になったケイトと、大事な愛娘が傷つくのに怒りを感じ始めたが切実な声で叫ぶ。

だが、誰もそれに耳を傾けたものなどいなかった。



 しばらくして、ついにアベルだけが弾き飛ばされ、とイオンの目の前に滑り込まれ、

顔面から華麗なスライディングを見せていた。

体がぴくぴく動き、なかなか起きあがろうとしない。




「アベル! 大丈夫なの!?」

「だ、だ、大丈夫、な、はず……」

「もう、こうなったら……、ルフィー、艦内のバランスを左に傾けて! 天罰を与えてやるわ!」

『了解しました、我が主よ。――平行バランス変更。左サイドに――』




“アイアンメイデンU”起動プログラム「ルフェリク」が、

製作者であるの指示に従おうとしたが、それは叶わなかった。



 
突き上げるような鳴動が、艦橋を襲ったのだ。




「な、何ジャッ!?」

「じ、地震ですか!?」




 激しい振動に、テーブルがひっくり返り、防弾ガラスが嫌な音を上げて振動し、

制御宅のランプがいっせいに赤く色を変えた。




「どうした、シスター・ケイト? この揺れは何だ?」

<き、気流が! きゅ、急に気流が発生して……。ありえませんわ。一体、何ですの、これは!?>

「…………もしかして…………!」




 ケイトの報告に、の表情が急に強張った。

急な気流の発生。

それがこの砂漠地帯に起こったのだ。




(あれが……、やはりあれが、まだ生きていると言うの……!?)




「お、おい……、何だ、あれは!?」




 狼狽したようなペテロの声で、その場にいた全員が振り返る。

そして初めて、それを見ると、は自分の予想通りの展開に、

睨みつけるかのように目を鋭くさせた。






 立ちあがった砂漠は、予想以上の出来上がりであることに、

 は心の底で舌打ちをした。











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