これは夢だ。

そんなはずはない。



 相手の姿を見て、はそう思わずにいられなかった。




(どうして……)




 再びイェニチェリに背を見せ、目の前に映し出されているラドゥの姿を鋭い眼差しで睨みつける。




(どうして彼が、生きているの!?)




 トレスの報告によれば、彼はカルタゴの地にて倒し、その身が海に沈んだと聞いている。

その捜索はまだ続いていることは、先日、ローマにいるケイトから知らせてくれた。




(……もしかして、死体を探していたのは私達だけじゃかった……?)




 彼の死体を捜しているのは自分達だけではないとなると、検討がつくところと言えば1つしかない。

そして今回の騒動が、彼らが仕込んだ罠だとしたら……。

は思わず、唇を強く噛み締めた。




(あの男、ただの美青年じゃないようね……)




 大体の予想がついた時、背後では、未だラドゥの報告が続けられていた。

彼が言うには、イオンが帝国を裏切り、教皇庁の枢機卿の1人と接触して、

何らかの謀議を結んだと言う。




<陰謀とな? その陰謀とは何か、男爵? 短聖種どもは一体何を企んでおるというのかや?>

[それは……]

<許す、ルクソール男爵。諸卿の前でしかと申すがよい>




 もったいぶってなのか、単にこの聴衆の前で発言することに気後れしているのか、

一瞬戸惑った様子を見せたが、低い機械音声がそれを許可する。

それを受けて、ラドゥはその陰謀というのを報告し始めたのだった。




[では申し上げます。……教皇庁とメンフィス伯は、畏れ多くも皇帝陛下のお命を

奪い奉らんとの企みを巡らせております]

[!]




 とんでもないでっち上げをされたものである。

襲われた自分達が皇帝暗殺を企てていたなど言われたのだから当たり前だ。




(大変なことをしてくれたわね)

『確かに。だからこそ、真実を突きとめなくてはならない。違うか?』

(分かってる。けど、こうともなると、事の真相を告げるのは難しそうね)

『そうなるな。……ところで、よ』




 厳しい表情で断じるバイバルスの声を背中で受け止めながら、

は耳元から聞こえる声に聞き耳を立てる。




『お前はあの者が……、本物の皇帝ではない考えているのか?』

(……さあ、どうでしょうね)




 事実、もしあれが本物なら、はこんな悠長にこの場には立っていない。

体内に潜む「あいつら」が反応し、彼女の脳内に何らかの指令を出してくるはずだ。

なのに、その気配など1つもなく、彼女はここに佇んでいる。



 そうなると、あそこにいるのは、はやり本物ではない、ということになるのであろうか。

もしそうなら、あの者の正体は……。




(……内邸へ移動して)

『いいのか、? もしあの者が本物だったとしたら……』

(もし本物だとしても、彼の意思がある限り、それは防がれる。ちゃんと、理解しているはずだから)

『……分かった』




 どうなるかなど、にも予測不可能だった。いや、大体の検討はつく。

しかし、彼女と「繋がっている者」がそれを拒否しているのであれば、彼女に反動は起こることはない。

いや、起こってはならないのだ。

――彼女の心の内に秘めた想いさえ表に現れなければ。






<余は、我が愛娘の死を絶対に許さぬ。彼女の死を与えし者、またそれに

関わった全ての者どもの頭上に、余は復習の翼を広げるであろう>






 低い機械音声の声が会場内に響き渡る。

 そしての姿も、その場からゆっくりと離れたのだった。











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