駅はアベルとエステルがいる船着場とは逆方向なため、

は彼らに会うことなく目的地に到着し、ホームで1人ぽつんと立っていた。



 どこからともなく出てきた1つの箱から、1本の棒のようなものを取り出す。

先端を口にくわえ、マッチで火を起こすと、そっと火を灯す。

軽く吸い、少しだけ勢いよく吐くと、白煙が空に向かって飛んでいった。



 「力」を取り戻すと、無償に煙草が吸いたくなるこの衝動をどうにかしたいと思う。

実際、彼女が煙草をふかすのは15年ぶりのことだ。

よくそれまで我慢して来れたと感心したくなるぐらいだ。




「へ〜、って、煙草吸うんだ」




 横から聞こえてくる声に、は反射的に反応する。

出来ることなら、会わずに帰ろうと思っていた人物が横にいたからだ。




「……まだ何か用があるの、セス・ナイトロード?」

「セスでいいよ。それに、ボクはただ、キミの見送りに来ただけなんだけど」

「あなたの見送りなんていらないわ、セス・ナイトロード」




 白煙を吐きながら、はセスに目を合わせず、正面を見つめる。

そんな彼女に、セスは苦笑しながら、横のベンチに腰を下ろした。




「……あのね、




 まるで何かを告げるかのように、セスはゆっくりと話し始める。




「キミとは今回初めて会ったけど、彼女から話を聞いて、ずっと気になってたんだ。

どんにきれいな人なんだろう。どんなに優しい人なんだろうって。……でも、結局

会えないで、逆に会いにくくさせてしまった」




 少しひんやりする風が、ホームに吹く。

 まるで、2人の関係を表しているようだ。




「ボクがしたことで、キミが怒る気持ちは分かる。けど、あの時にはそれしか手段がなかった。

どうしても助けたいって、思ったから。それが……、それがあんな悲劇を引き起こすことになった

だなんて、想像もしてなかった」

「…………」




 何も言わず、はセスの話に耳を傾けていた。

いや、実際にはそうでなかったのかもしれない。

それを証拠に、全く内容とは合っていない、だが少しだけ的を射た質問をする。




「“01”は……、どうだったの?」

「姿も全く、あの時にままだったよ。たぶん、何百年もかけて再生したんだと思う。器ごとね」

「そう……」




 遠くから低く、地響きのような音が聞こえて来る。

それが徐々に近づいていき、列車がホームへと入っていく。




「……アベルは、何て?」

「奴を破壊するって言ってた。――も同じなんでしょ?」

「私1人ででも、、絶対に破壊するわ」




 煙草の火を消して、トランクを持ち上げると、ゆっくりと扉へ向かって歩き出す。

その姿は何の躊躇いもなく、鋭い牙のように殺気立っているようにも見えた。




「……ボクはね、




 扉を開ける手を止めるように、セスがポツリと呟く。




「ボクはキミと……、友達になりたかったんだ。仲良くなって、一緒にいろんなものを見たかった。キミ

と一緒に、遊びたかったんだ。……へへっ、殺される運命なのに、こんなこと言うの、可笑しいよね」




 セスが辛そうにしながらも笑顔でいることに、が気づかないわけがなかった。

だから背を向けたまま、彼女に告げた。




「あなたを殺せば、きっとアベルは私を殺す。だから、私はあなたを殺さない。けど時が来て、

アベルの許可を得たその時には……、……容赦なく、あなたの命をもらいに行くわ」




 扉を開けて、車内に乗り込む。

指定された個室に入ると、そこから見えるセスの顔を見つめた。



 少し驚いたような、でもどこか嬉しそうな表情をする彼女の笑顔を。






「だからそれまで、ここで『大事な子供達』に囲まれて、幸せに暮らしなさい、セス・ナイトロード」






 言葉は伝わることはなかった。

 しかしの想いは、しっかりとセスに届けられたのだった。











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