吐く息は、確かに白かった。
しかし、そんなことなど、気にしてなどいなかった。
[これからどちらへ向かわれるのですか、アルフ子爵?]
[別に。適当に回って、適当に帰るわ]
駅のホームに佇む2つの影。
1人は茶色で、所々が黒く輝く長い髪を靡かせながら、片手に煙草を手にしていた。
もう1人は褐色の肌をしていて、紫色の瞳を輝かせている。
[そう。……アルフ子爵]
[私は子爵なんかじゃない。何度も同じことを言わせないで、ラフマン卿]
[私のことも、シェラでいいとおっしゃったはずですよ、]
[そんな細かいことなど、どうでもいいことよ]
少女と初めて会って、まだ1周間ぐらいしか立っていない。
ミルカにしつこく帝国に留まるように命じられ、仕方なく街へと散策へ出かけた先で知り合った。
相手は自分が短生種だということを知っているようだったが、
極秘任務のことを知ってか、ずっと彼女のことを偽名で呼び続けていたのだ。
[ミルカ様の家を無事に抜けられたと思ったら、貴女に掴まるだなんて、私もつくづく運が悪いわ]
[私はあなたの手助けをしたはずです。違いますか?]
[……まあ、そうだけど]
相手は彼女のために、偽の身分証明書を発行してくれたのだ。
下手に文句を言うわけにはいかない。
それが分かっていても、ついいらない口を叩いてしまうのはどうしてなのだろうか。
駅のホームに列車の到着を知らせるかのように、
右側から少しだけ騒々しい音が聞こえ始める。
ホームに入り、ゆっくり止まると、
彼女はこげ茶のトランクをしっかりと持ち、列車の扉を開けた。
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列車に入ろうとしたを、ホームにいる少女が呼び止める。
その表情は、どこか寂しそうにも見える。
[楽しい日々を……、ありがとう]
そして彼女は、に微笑みながら手を振った。
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