翌日、何とか目を覚ましただが、

プログラムに転送しすぎたからか、頭がずきずきと痛んでいた。




『これじゃ、アベル・ナイトロードのことを言えないわね』

「煩いわよ、ステイジア」




 呆れた表情をしながら、戦闘プログラムサーバ「ステイジア」が彼女へ頭痛薬を投与する。

そのお蔭で、何とか服に着替えることは出来た。




『それで、今日はどうするの?』

「とりあえず、アベルに報告しに行くわ。ついでに、こっそりカテリーナにも会おうかと思って。

エステルの身の確保をしないといけないし」

『あら、アイザック・バトラーを追いかけるのはやめたの?』

「しばらくお預け。それに、エステルと一緒にいるんだったら、まとめて片付けた方がいいし」




 長生種であるシェラザードは、日中行動を起こすことが出来ない。

それを狙って、何かを仕掛けるといったことをするような人物ではないことを、は知っていた。

彼のことだ。夜になって、彼女やエステルが動き始めてから行動を開始するに違いない。

だから今のうちに、アベルと上司であるカテリーナに事情を説明しに行こうとしたのだ。




「ああ、そう言えば、マタイのことがあったわね。彼、どうしているのかしら?」

『我が主の指示通り、エマヌエーレ・ダヌンツィオの会話を傍聴してるから、それが全部相手にも聞こえているはずだ。

あとで、フィレンツェ公フランチェスコ・デ・メディチ枢機卿に報告するんだと思うぜ』

「なるほど。それじゃ、私もいい手助けしているわけね」




 通信プログラム「ザイン」の報告に、は1つ安堵のため息をつく。

協力すると言っておきながら、何1つとしてその役割を果たしてなければ意味がないからだ。




「で、私にもその報告はしてくれるんでしょ?」

『勿論。むしろ、そっちの方が重要だしな。――昨夜の1件で、エマヌエーレ・ダヌンツィオは

シスター・エステル・ブランシェが敗血症と髄膜炎によりイシュトヴァーン中央病院で死亡したと発表した。

まあ、正確には、それは異端審問局と広報聖省の決定みたいだけどな』

「昨夜の彼女とラフマン卿の行動によって、そう手を打つしか方法がなかった――そういうわけね」




 こうなってしまうと、もはや敵はダヌンツィオだけではなくなってしまった。

異端審問局を敵に回したとなると、

いつエステルとシェラザードに攻撃を仕掛けて来てもおかしくない。




「で、異端審問局の動きは?」

『今はまだ待機中だけど、準備はしているらしい』

『取り込み中失礼する、我が主よ』




 途中で入ってきたのは、

先ほどから数多くの情報収集で疲れているはずの情報プログラム「スクラクト」だ。




「スクルー、お疲れじゃなくて?」

『我はプログラムだ。疲れなどない』

「まるで、トレスみたいな答えね」

『今はそのような会話をしている場合ではない』




 いつもならもう少し突っ込むところなのだが、どうやらそれどころではないらしい。

プログラム「スクラクト」が急ぐかのように主であるに報告する。




『我が主よ、“ブラックウィドウ”がイシュトヴァーン入りをした。ミラノ公カテリーナ・

スフォルツァが呼び出したとしか考えられない』

「…………モニカが!? 何故!?」

『原因不明。だが恐らく……』

『エステル・ブランシェを確保するためでしょう』




 再び会話に割りこんだのは、先ほどに頭痛薬を投与した光

――戦闘プログラムサーバ「ステイジア」だ。




『正確には、彼女を拘束して、バビロン伯シェラザード・アル・ラフマンを殲滅させるためね。

パートナーには、トレス・イクスを行かせるかも』

「アベルは?」

『彼は……、……きっと、いいように言い包められて、留まらせるでしょうね』

「そんな、何考えてるのよ、あの人は!!」




 の目は怒りの色を見せ、そして指示を出すであろう人物を脳裏に浮かべる。

そして彼女の行動の理由を、は頭の中で描き始める。






「本当、手間がかかる……!!」






 そう呟いたの姿は、すでにその場から消え去っていたのだった。











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