服は思ったよりも破れていなく、修正プログラム「フェリス」によって元に戻った。
もようやく落ちつきを取り戻し、アベルと共にホテル・ツイラーグへ向かって走っていた。
「エステルから手紙……。どうやってカテリーナのもとへ到着したのかしら?」
「それは分かりません。アントニオさんもカテリーナさんから預かったとしか言ってませんでしたし」
「そう……」
先ほど、アイザック・バトラーはエステルから手紙を預かり、
それをアベルに届けてもらうように頼まれたと言っていた。
その手紙とアベルが持っている手紙は、恐らく同じ物であろう。
だがもしそうだとしたら、アイザック・バトラーは一体誰に手紙を渡して、
カテリーナへ渡ったのだろうか。
「……また1人で考えてますね」
不安な表情を浮かべたアベルの姿があった。
「あれだけ暴れた後です。お辛いようでしたら、どこかで休んでいてもいいんですよ?」
「生憎、私の宿泊先もホテル・ツイラーグなの。だったら、一緒に戻った方がいいでしょ?」
「そういう意味じゃなくてですね……」
アベルが言葉を続けようとしたが、背後から重いものが動いている音がしため、ここで止められた。
2人が振り向くと、そこにいたのは、他人から見たら重く感じるであろう鎧をつけ、
平然と走る1人の男だった。
「あれは……、ペテロ!?」
「まだ到着していなかったんですね!?」
予想外な登場と思うと、予想外に遅い行動と思うアベルが、それぞれ声を挙げる。
ペテロは2人に追いつこうと、必死に走っていたのだ。
「待て、ナイトロード! ……ぬおっ!? 汝はシスター・キース! 今は休暇中ではなかったのか!?」
「久しぶりね、ペテロ。まさかこんなところで再会するとは、思ってもいなかったわ」
ペテロの質問に答えることなく、は簡単に挨拶をして、そのまま走り続けた。
「遅いじゃないですか、ペテロさん。何をしていたのですか?」
「ああ、実は、途中でボルジア枢機卿に足止めされ、買い物に行く者らしく、
メモの1枚でも持って行った方がいいのではないかと、これを差し出された」
「買い物の行く者らしく?」
「私達、聖下から買い物に行くように命じられて外出しているってことになってるんですよ」
事情を理解していなかったに、アベルが事を説明する。
サンドイッチ好きのにとっても、
ホテル・ツイラーグにあるというベーグル・サーモンサンドはとても魅力的だったが、
今はそんなことを考えている暇などなかった。
かくして、何とか目的地へ到着した3人はホテルの中へ入ると、階段を使って上に上がって行った。
昇降機を使ってもよかったのだが、ペテロ1人で重量オーバーになるのではないかという怖れがあったからだ。
6階まで上がり、スイートルームへ向かおうとする。
しかし入口には、見覚えのある格好をした者達が塞いでしまっていて、
中の様子が全く見えなかった。
「ここは、とりあえず屋上まで上がって、上から攻めましょう」
「上から攻めるって言ったって、どうやって?」
「ロープで下に降りるんですよ」
そう言いながら、アベルは屋上へ向かって階段を再び上がり始めると、
とペテロもそれに続くように後を追った。
「さん! ヴォルファイさんからロープを戴けませんか?」
「ですって、ヴォルファー。やれる?」
『勿論だよ、我が主よ』
手元に何かが浮かび上がり、徐々に姿を表して行く。
それがロープだと分かった時、近くで光景を目の当たりにしたペテロが叫んだ。
「ロ、ロ、ロープが出てきただと!? シスター・キース、いつから汝はそんな手品みたいなことが
出来るようになったのだ!?」
「…………なるほど、あなたは私のプログラム達に関して無知識なわけね」
異端審問局には、すでに“神のプログラム”の情報は出回っているはずなのだが、
横にいる局長はそれを知らなかったらしい。
は少し呆れながら見つめた後、ロープをアベルに手渡すと、
アベルはその先端を、丁度出っ張っている部分にしっかりと縛りつけた。
「ペテロさんは、適当に壁をぶち破って、中に入って下さい」
「そんなことして、大丈夫なの?」
「ええ、……たぶん」
「たぶんって、一体どういう……、アベル!?」
「すみません、さん。少しの間、私に掴まっていて下さい」
アベルの腕がの腰に回り、しっかりと自分の方へ引き寄せる。
ロープを2人の体にしっかりと巻きつけ、そのまま下へ落ちて行き――。
視界へ飛びこんできたのは、ある1つの窓ガラスだった。
窓の奥にいるのは、何かを抱き起こしているエステルとシェラザード、
そして中尉らしき1人の男だった。
その男の手には拳銃が握り締めていて、銃口がエステルの方を向けている。
「アベル!」
「分かってます!」
その言葉と同時に、アベルはいつの間にか取り出した旧式回転拳銃の銃口を窓ガラスに向けた。
そして引き金を引くと、銃弾は窓をぶち破り、エステルに向けていた拳銃が弾き飛ばされた。
「さん、しっかり掴まってて下さい!」
「言われなくてもそうするわよ!」
は右腕をアベルの左肩にしっかりと絡め、左腕を腰に絡み付ける。
そんなを左手で支えながら、アベルは一度離れてから、一気に飛び込んだ。
窓ガラスが派手に蹴破られ、それと同時に、2人を巻きつけていたロープが自然と解かれて行く。
そしてアベルは銃をしっかりと握り締め、も懐から愛用の短機関銃を取り出した。
「――勝手に人の人生を終わらせないでいただきましょうか!」
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