短機関銃が破損された。
しかも、仲間の手によって。
油断していたとしても、予想外の展開に、
は右手に持っていたものを地面に放り投げるしかなかった。
「国務聖省職員エステル・ブランシェに警告する。――武器をおろし、ただちにその吸血鬼から離れる。
さもなくば、卿の生命および身体の安全については保証出来ない」
トレスの冷酷な言葉が、その場に響き渡る。
エステルは手にしている散弾銃を意味もなく彷徨させる。
(何とかしなくては……)
今のトレスに真実を告げても信じてくれるとは思えない。
しかし、こうしている間にも、捕われているシェラザードの士民達の危険に曝されている。
何としてでも、この場を切り抜かなくてはならない。
(左側の短機関銃だけで、どこまで通用するか……)
相手にばれない様に、左手を左側懐にある短機関銃へ伸ばす。
その間にも、エステルは相手の要求に必死に抵抗する。
「お、お断りします! 自分が助かるために、彼女を見殺しにするだなんて……。
そんなことはしたくありません!」
「エステル・ブランシェ――。現状では、卿ら2人の命を助けることは不可能だ」
かすかに苛立ちの色を見せるトレスに警戒しながら、はゆっくりと短機関銃に振れた。
そしてそれを強く握り締めた時、うんざりしたような声が耳に入ってきた。
「もういいじゃないか、神父トレス。……そのお嬢ちゃんは死にたいって言ってるんだ。死にたがって
いる奴を助けようなんて、お節介ってもんさね」
「――やめろ、シスター・モニカ!」
トレスが止めた時には、すでにモニカは風を切り、エステルに向けて白光を迸っていた。
「エ、エステルさん!?」
「エステル!」
アベルとシェラザードがエステルの声を吐き出した時には、
散弾銃を握っていた手がざっくりと裂かれ、悲鳴を溢した。
そしてさらに攻撃を仕掛けようとしたモニカに、
はしっかりと握り締めた短機関銃を取り出し、銃弾を飛ばした。
素早く反応したモニカが、手にしている五指剣で銃弾を弾かせる。
通常型の強装弾だったため、貫くほどの威力はなかった。
「何だ、まだ持ってたのか」
かすかに舌打ちし、モニカの体が瞬時にその場から消えた。
そして気がついた時には、と数センチ離れた位置で五本指を振るおうとしている。
「だったら、そっちもぶっ壊してやるよ」
振り下ろされた五本指に素早く反応し、は体を横へ横転させる。
距離を空けて、再び銃口をモニカに向けたが、撃たせまいという勢いで接近してくる。
「しつこい女は嫌われるわよ!」
銃口を一度下ろし、体が中を浮き、モニカの頭上をバック転の容量で飛び越える。
そしてすぐに身を屈み、足を旋回する。
が、の足には何も当たることはなかった。
「しまった!」
「私が普通と同じ容量で、引っかかるわけがないじゃないか。忘れたとは言わせないよ!」
“ブラックウィドウ”――物質透過能力を持つモニカに、いつもと同じ攻撃が通用するわけがなかった。
頭上から振り下ろされる五本指に反応して素早く後退する。
丁度前にかかった黒と茶色の髪が数本切れているのが分かる。
「本当なら、あんたもここで殺してやりたいところだが、あとからビービー言う奴がいるから、
そいつを倒してからにするよ」
モニカの言葉に、はピクリと反応するが、
それよりも先に、モニカは再びエステルに接近していたため、
しゃがんでいた体勢を整え、そちらへ向かおうとする。
しかしそれよりも、猛々しい方向とともに肉薄した巨影がモニカに殴りかかった方が早かった。
「馬鹿な……。こいつ、確かに喉かっさばいてやったはずなのに!?」
モニカの瞳がかすかに見張られたが、
ペテロの背中に覆われた立てを支える二枚のマニピュレーターの油圧ケーブルが裂かれていることに気づき、
舌打ちをする。
はペテロの命に別状はないことが分かると、大きく安堵の息をこぼし、
もう1人の派遣執行館――トレスの方へ視線を動かした。
が、それよりも先に聞こえて来た声に反応する。
『、近くの水溜りに手を突っ込みなさい』
ピアス越しから聞こえた声の意味が、にはよく分からなかった。
水溜りに手を突っ込む?
どうやって突っ込めというのだ。
「ステイジア、言っている意味がよく分から……」
『今のあなたなら、使えるものだから。早く!』
さらにわけの分からないことを言われ、は顔を顰める。
だが、とりあえず指示に従おうと思い、
は自分の場所から数センチ離れた位置にある水溜りへと向かった。
トレスはモニカを助けるためにペテロに銃口を向けたが、アベルによってそれが阻止され、
連続射撃でとりあえずの動きを止めてくれた。
それが功を奏し、が目的の水溜りに到着するまでにはそう時間がかからなかった。
少し躊躇いながら、ゆっくりと右手を水溜りの中へと入れる。
すると、手はどんどん置くへ入っていき、地面に到着することなく、
肘まで真っ直ぐ進んで行くではないか。
『中にあるものを掴んだら、おもいっきり引っ張りなさい』
「一体、何があるって言うの?」
『それは出せば分かるわ』
詳しいことを何も言わないステイジアに、は少しいらだちながらも、指示通りに手を沈めていく。
指先に何かがあたり、はさらに手を進める。
グリップらしきものが掌の位置に到着し、それをしっかりと握ると、
勢いよくそれを引き出した。
「こ、これは……!!」
(ブラウザバック推奨)