市警軍の一団が、目の前にいる4人に向かって、一斉に攻撃を仕掛けてくる。

それを交わしながらも、各々の武器で攻撃をしかけていった。




「無駄な抵抗をやめい、カトンボどもおおおおぉぉぉぉっ!」

「だからって、他の建物まで壊さなくてもいいでしょうに!!」




 手にする槌矛を振りまわしながら、“壊滅騎士”が次々と市警軍達を叩き止めして行く。

だがその被害が無関係な建物やら街灯やらにまで広がっているため、

アベルははらはらしながら見守っていた。




「このままじゃ、街中の建物が全部壊滅してしまいます!」

「それも仕方ないんじゃなくて? 相手があんなでかいもの、持ってきてるんだから」




 一方、はらはらしているアベルのことなどお構いなしに、

は手にしている“剣を施した銃(ガンソード)”の引き金を引きながら、市警軍達を一気に撃ちのめしていた。

勿論心臓を外してはいるが、肩や足を撃ち抜いているため、そう簡単にすぐ動くことは不可能であろう。




「本当、戦争好きって大嫌いだわ」

「余所見するな、シスター・。――前方を見ろ」




 トレスの言葉と同時に、が視線を移動した先には、

対戦車砲から放たれた砲弾が、目掛けて発射されていた。

それに、真っ先に青ざめたのはアベルだった。




さん、危な――!」




 だが、アベルが危険信号を送った時には、すでに砲弾は見事に縦半分に切り落とされ、

左右に分かれて後方で爆発音とともに消失していた。

慌ててを見れば、彼女が手にする“剣を施した銃(ガンソード)”の剣が、かすかに白煙が上がっていた。




「そ、そんな馬鹿な……!!!」

「砲弾を剣で、切断出来るはずがあるわけがない!!」

「それが、出来るのよね」




 驚く市警軍を余所に、は余裕そうに軽く微笑む。

だがそれだけではない。彼女の姿はいつの間にか対戦車砲の近くにあり、

標的に向けて剣を2・3度振り下ろした。



 切りつけられた対戦車砲があっという間に亀裂が入り、一気に破損する。

その光景を、言葉をなくしたかのように、市警軍達が魚のように口をパクパクさせながら見つめている。

そしての視線が彼らに向けられると、体全身に震えが起こり、

その場を退散しようとするが――。




「逃げたら、負けを認めたことになるでしょうに」




 背後から感じる剣圧により、彼らは動きを止め、そのまま気絶したかのように倒れこんでしまった。

傷などつけていない。

ただ、彼らの制服や髪を少し切っただけだ。

恐らく、恐怖のあまりに気を失ってしまったのであろう。




「こんなんで、よく市警軍なんてやってられるわね。情けなさ過ぎるわ」

「誰だって、そんなの向けられたら、気絶しちゃいますよ!」




 後方から聞こえたのは、先ほどまでの身を案じていたアベルの声だ。

その顔は先ほどとはうって違って、どこか呆れているようにも見える。




「いくら何でも、ここまで派手にやることないじゃないですか!」

「相手の攻撃に対応しているだけよ。いけなかったかしら?」




 未だ攻撃の手を止めない他の市警軍に向かって、は剣を軽く振り下ろす。

肩や足を切り裂かれ、その場に崩れて行く者を見つつ、後方から銃弾の嵐が起これば、

それを避けつつ、“剣を施した銃(ガンソード)”を軽く振り上げて剣を折り畳み、引き金の奥へと戻す。

引き金を引き続けると、短機関銃のように銃弾が連続して発砲され、一気に壊滅させて行く。




『あともう少しで殲滅よ』

「了解」




 戦闘プログラムサーバ「ステイジア」の声を耳にしながら、はその方向へ視線を動かす。

残されたのは数人の市警軍と重機関銃のみだ。




「トレス、あなた、劣りとかって得意?」

「劣りに使うなら、ナイトロード神父が一番適任している」

「あ、そうか。それが一番いいわね」

「どういう解釈の仕方してるんですかーー!!?」




 数少ない装甲車に隠れて攻撃をしていたアベルが、

後方で作戦を練っているとトレスの会話に向かって叫ぶが、2人には届いていないようだ。

それを証拠に、はアベルの側まで近寄り、襟元を引っ張った。




「さーて、アベル、本領発揮の時が来たわよ。あのボルジア枢機卿が認めたほどの劣り振り、

とくと拝見させていただくわ!」

「あの、私はそれを認めた覚えは……、……ぎゃーーーっ!!!




 誤解を解こうとした時には、アベルはに背中を思いっきり蹴られ、重機関銃の前へと踊り出ていた。

標的を発見した重機関銃が物凄い音を立て、アベル目掛けて撃ち抜いて行く。




「ぎゃーっ!! トレス君、さん、助けてくださいー!!」

「劣りが得意なんでしょ? ならもう少し、このままでも……」

「得意なわけありませんってーー!!!」




 あたふたしながらも、涙を流すアベルが、は少し楽しいと思ってしまった。

しかしこのままでは、本当にアベルが餌食になってしまうので、は重たい腰を上げることにした。




「トレス、私が重機関銃を破壊するから、その隙を狙って、市警軍達を攻撃して」

「了解した」




 はトレスに命令すると、隠れていた装甲車から一気に飛び出し、重機関銃へ向かって走って行った。

相手はの存在に気づいたようで、すぐに攻撃をしかけようとしたが、

引き金を引こうと思った時にはすでに兵器は切り刻まれていた。

あたふたしてその場から逃げようとしたのもつかの間、後方から浴びせられた銃弾によって、

彼らはその場に倒れ、身動きが取れない状態にまで陥ったのだった。




「ふう、これで全滅したわね。怪我人がなくてよかったわ」

「怪我人になりそうでしたけどね」




 少し恨んでいるかのように見つめるアベルに、

は苦笑しながらも、あまり気にしていないかのごとく周りを見まわしていた。




「何を探しておるのだ、シスター・キース?」

「どうやって移動しようか、考えてたの。装甲車はあるけど、そこに大男が2人と私とトレスが乗るんじゃ、

いささか小さいんじゃないかと思って」




 残っている装甲車は、先ほどまでアベルが隠れていたものだけしかなく、

それは小さくて、鎧に包まれているペテロや長身のアベルが乗るが乗るにしては少し小さすぎた。




「シスター・、卿の
自動二輪車(モーター・サイクル)は出せないのか?」

「……ああ、なるほど、そういうことね」




 ふと思い出したのように、は指を1つ鳴らすと、彼女の目の前に何かが浮き上がり始めた。

姿を現した自動二輪車に乗りこむと、アベルへ向かって手招きをする。




「あなたは私の後ろよ」

「ううっ、次はさんと地獄のツーリングなんですね」

「そんなに私の運転は荒いかしら、ナイトロード神父?」

「いいえ、そんなことありませんありません、ありません!!」




 軽く睨まれ、アベルはあたふたしながら首を左右に振ると、

半分諦めたかのようにの後ろへ腰を下ろした。

それを確認すると、トレスはペテロに視線を動かす。




「ブラザー・ペテロ、卿は俺と一緒に装甲車へ乗れ。大使教館へ向かう」

「お、おう、そうだったな」




 何もなかった場所に現れた自動二輪車に驚いたのか、

ペテロはしばらく唖然となって見つめていたが、トレスの声でようやく我に返り、

慌てて装甲車の後部座席へ乗り込んだ。

運転席にいるトレスがエンジンをかけ、そのまま出発すると、

は先に行く2人を見送るように手を振った。




「それじゃ、私達も行きましょうか」

「その前にさん、一旦降りてもいいですか?」

「そんなに私の運転が怖い?」

「いえいえ、そういう意味じゃないんです」




 不満そうに言うに、慌てて首を再び左右に振りながら、アベルは一度自動二輪車を降りる。

も降りるように言われ、理由が分からないまま降りると、

アベルが再び自動二輪車に跨り、後ろを叩いた。




「さ、さん、ここに座って下さい」

「……運転出来るの?」

「出来ますとも。まあ、さんみたいには無理ですけどね」




 自慢げに微笑むアベルに、は少し不安になる。

車は運転出来るのまでは知っていたが、自動二輪車も運転出来たなど、聞いたことなかったからだ。




「アベル、気遣ってくれるのは嬉しいんだけど、今は急いでいるから、私が運転した方が……」

「体力を無駄に消耗している人に言われたくありませんよ」




 この人は、何か気づいているのだろうか。

ははっとしながら、アベルの顔を見つめた。先ほどのことがまだ頭にあるのだろう。

アベルの表情は「心配」という言葉そのものを表現しているかのように、

の様子を伺っていた。




「あなたは無茶をし過ぎです。あんだけ暴れたのに、“
剣を施した銃(ガンソード)”を振り回したのですから、

少しは休んだ方がいいんじゃないんですか?」




 “
剣を施した銃(ガンソード)”は、剣と銃の両方の機能を兼ね揃えた武器。

どちらかの力が劣ろっていると、身に負担をかけてしまう。

今のは、銃としての力は維持していても、長年使っていなかった剣の力は劣ろっている。

アベルが心配しているのはそこだったのだ。




「……仕方ないわね」




 諦めたかのようにため息をつくと、は“
剣を施した銃(ガンソード)”をしまおうと後方へ手を回した。

が、予想していたものが背後になく、思い出したかのようにピアス越しに声をかけた。




「ヴォルファー」

『ごめん、すぐに出すよ』




 転送プログラム「ヴォルファイ」の声と同時に、の腰に何かが巻きつかれ、

背後に細長いケースのようなものが吊る下げられていた。

そこに“剣を施した銃(ガンソード)”をしまうと、アベルの背後に腰を下ろし、彼の腰に両腕をしっかりと巻きつけた。




「少しでも転びそうだったら、すぐに変わってもらうからね」

「そうならないように、安全運転しますから大丈夫です」






 優しく微笑むアベルの顔は、どうしてこんなに安心させるのだろうか。

 そんな疑問を残したまま、アベルの運転する自動二輪車がその場から離れて行ったのだった。











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