近頃、の様子がおかしい。

 やたらとアベルのことを心配するようになり、

 あまりカテリーナやAxメンバーと話すことがなくなってしまったのだった。




「アベル、ちゃんと食べてるの?」

「食べてますよ〜。この前の任務で、経費使い切っちゃいましたけどね、えへ♪」



「アベル、また怪我したのね」

「これぐらいなら、大丈夫ですよ。さんが心配するほどじゃありません」



「アベル、また無茶したんですってね」

「そんなことないですって! 侵害だな〜」




 何がとつけては、はアベルと時間を共有することが多くなり、

 それに不審がらない者が誰一人としていないわけでもなく、

 彼女を見つけては、詳しいことを問い質そうとした。



 しかし、不機嫌そうに返って来る言葉は、いつも同じだった。






「私がアベルのことを心配しちゃ、いけないの?」






 そして、またアベルを探し回るのだった。









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「どうも、駄目なのよ」




 夜、アベルに寄り添っていたは、

ダウンライトだけが照らされている部屋でポツリと呟いた。




「大丈夫ですか、さん?」

「かなり重症。こんなに重くなるとは思わなかったわ」




 原因が分かっているだけに、は重く悩んでいた。

 押さえたくても押さえられないこの感情に押し潰されそうで仕方がなかった。




「私も覚悟はしていましたが……、こんなんじゃ、全部解放されたらたまったもんじゃないですよ」

「分かっているから、それ以上は言わないで、アベル」




 呆れながらも、の髪を撫で下ろす手はとても優しくて、

 ついついそれに甘えてしまう。

 だからなおさら、ここから離れたくなくなってしまう。




「……戻りたいの、かな?」

「完全体じゃないのにですか?」

「こうまでなると、嫌でもそう思っちゃうわよ」




 甘えるかのようにアベルの胸元に潜り込むと、アベルは彼女をしっかりと抱きしめる。

 時にの額に唇を当て、少しでも安心させようとする。




「きっとみんな、心配しているよね?」

「してますよ。ケイトさんなんて、毎日のように私に様子を伺いに来るんですよ。“教授”にはこの前、

私が何か変なことを吹き込んだんじゃないかって言われましたし」

「ごめんなさい……」

さんが謝ることじゃないですって。原因、ちゃんと分かっているんですから」




 「力」を解放したことにより、とアベルの「繋がり」はより一層強いものへと変わった。

 そのため、はアベルに対する「感情」を制御することが困難になっていたのだ。

 任務に出ている時はそのことに集中しているからいいのだが、

 それが終わると、ローマにとんぼ返りをして、即座に報告書を提出して、

 アベルの姿を探してしまう。

 そんな自分を、は止めることが出来なくなってしまっていた。




「心配してくれるのは嬉しいですけど、やはりちょっと大げさですよ」

「分かっているから困っているんじゃない」

「まあ、そうなんですけど。……今も不安ですか?」

「今はまだ大丈夫。……こうやってそばにいるから」




 抱きしめていた腕が強くなり、しっかりとしがみ付く。

 そんなの姿に、思わずアベルは苦笑してしまう。

 これでは、いつ解放されるか目処が立ちそうもない。




「今日はこのまま、ここで寝ますか?」

「そうする。何だか……、眠くなってきたから」




 ベッドにそっと寝かせると、アベルも一緒に横になり、

 再びを抱きしめる。

 そして、小さな声で、何か言い始めたのだった。



 それは昔、が1人ぼっちだった時に、

 彼女が最も信頼していた人物が子守唄代わりに歌ってくれたものだった。

 アベルが知っている理由は、彼との共通の知人だからという理由で十分用が足りている。



 その声は、いつのまにか2つになり、

 アベルの体に絡みついたの腕が強まったのを感じた。

 どうやら、昔のことを思い出しているらしかった。




「……こんな姿見たら、彼女、何て言うかしらね」

「どうでしょうね。……まあ、呆れた顔しながら、少なからず安心はすると思いますよ」

「安心?」

「ええ。……こうなることを、彼女は望んでいたかもしれませんから」




 「人間」を信じようとしなかった者同士が、今こうして、お互いを信じ合っている。

 それが相手の希望だったのであれば、大成功と言ってしまってもいいのかもしれない。

 だが、これは少々、大げさすぎる表現でもある。




「……これじゃ駄目ね、私」

「ええ、確かに。私も毎回これじゃ疲れますよ」

「やっぱり、疲れてたのね」

「そりゃ、疲れますって。けど、嬉しかったですよ。私のこと、頼ってくれたから」

「当たり前よ。アベルにしか……、こんなこと、出来ないから」




 目と目が重なり合い、お互いに離せなくなる。

 その間がどんどん縮まり、ゆっくりと瞳を閉じる。

 最初は軽く、そして徐々に深くなり、息が苦しくなった時以外、離れることはなかった。




「明日」

「はい?」

「明日、みんなとちゃんと、接してみる。それで、頑張って克服してみる」

「私もお手伝いしますよ、さん」

「ありがとう、アベル。……ありがとう」




 ゆっくりと瞳を閉じ、ゆっくりと眠りの世界へ入っていく。

 そんなに、アベルはそっと、額に唇を落とし、

 彼女に聞こえるか聞こえないぐらいかの声で呟いた。






「私はずっと、ここにいますよ、さん」









 翌日、は周りにいろいろ言われながらも、

 久しぶりにご自慢の紅茶とお菓子を振舞うことに相成った。

 時々、近くで見守っているアベルのことが気になったのだが、

 話が盛り上がるうちに、そんなことはどうでもよくなって来ている自分がいて、

 心の底から安堵のため息が漏れたのは、言うまでもなかった。






















GLAYのシングル「G4」に収録されている「恋」をリピートで聞いていたら、
思わず書きたくなってしまって作成してしまいました。
ですが、いくら書きたかったからって、
こんなに甘くなってよかったのでしょうか(滝汗)。
夢主、何だかとても可愛らしいし。綺麗カッコいいがモットーだったはずなのに。←そうだったんだ
溜まっていたのか、私(違)!!

てなことで、こんなんので失礼致しました(汗)。




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