< Roman Cross Wings -Dreams- 紅野 早紀様教理聖省夢主共演夢 -Spring Song-









 あの日、私は「天使」に会った。









「……あれ?」




 教皇庁の裏にある庭園は、すっかり春の色に染まっている。

 その中から聞こえる歌声は、とても柔らかかった。




「誰かしら……」




 最初はゆっくり、伺うように歩いていたけど、

 知らない間に、スピードが上がっていった。



 1本の木の木陰まで行くと、歌声がはっきりと聞こえてくる。

 ここの国の言葉ではなく、英語の歌だ。

 ……ここでは、アルビオン語って言うんだっけ。




「すごい……」




 黒メッシュが入った長い茶色の髪。

 それを1つにまとめている黒いリボンに、耳につける黒十字のピアス。

 そして身に纏っている黒の僧衣。

 ほとんどが黒で統一されているのに、なぜか明るい光みたいなものが見えて、

 何だか眩しく感じた。




「……きれい……」




 自然と毀れた言葉。

 でも本当、それしか浮かんでこなかった。



 まるで、風のように流れる歌声。

 まるで、神の遣いである、「天使」のような歌声。

 会ったことなんてないけど、もし本当にいるのであれば、

 きっと、こんな風な人なのかなと、ふと思ってしまう。




「……きゃあっ!」




 風が吹き荒れ、一瞬、体が奪われそうになる。

 木に咲いていた花の花弁が、地面にひらひらと落ちていく。



 その花弁と花弁の間から、彼女の視線が私に注がれていることに気づいて、

 思わず顔を赤く染めた。




「こんにちは」

「こ、こんにちは……」




 ふわりと微笑む彼女に、胸がドキッとする。

 何てきれいな笑顔なんだろう。

 こんなの、一度も見たことがない。




「あ、あの、ごめんなさい! 私、お邪魔してしまったようで……」

「謝る必要なんてないわよ、教理聖省規定外異端審問官シスター・




 知っているはずもない名前を言われて、

 私は思わず目を見開いてしまう。

 どうして知っているんだろう?




「メディチ猊下から聞いたのよ。そんなに驚かないで」

「あ、はい。……あの、あなたは……、派遣執行官ですか?」

「そう。国務聖省特務分室派遣執行官“フローリスト”、シスター・よ。初めまして、
シスター・

「は、初めまして、シスター・






 派遣執行官“フローリスト”、シスター・

 コードネームの意味は、「神の力を持つ天使」。

 主は銃撃戦だけど、剣術、体術共に自己流で身に付け、

 どの腕も格別だとブラザー・マタイが言っていた。

 昔、シスター・パウラも倒した経験があると聞いたことがあるけど……。






「よかったら、こっちに来ない? 離れていたら、話しにくいし」

「え? でも、私は……」

「敵対していようが、そんなの関係ないわ。第一、こんなに可愛らしい子が異端審問官だなんて、
考えられないわよ」




 ため息をもらし、呆れた表情を見せても、

 私の彼女に対するイメージは、そう簡単に崩れることなどなかった。



 恐る恐る近寄り、彼女の横に並んでみる。

 目の前に広がる光景は、まるで満開の桜のように見えて、

 一瞬、自分のふるさと――今は消滅してないけど――を思い出してしまう。




[……少し、恋しくなった?]

「え……?」




 彼女の発した言葉は、ローマ公用語じゃなかったのに、

 私には何を言ったのかがはっきりと分かった。

 その前に、どうして彼女がこの言葉を話せるのかが、すぐに疑問となって頭を横切った。




「日本語……、話せるんですか!?」

「少しだけね」

「そうなんですね。……神父アベルと神父トレスはお元気ですか?」

「あのへっぽこ神父と冷血神父なら相変わらずよ。会ったことがあるの?」

「はい。……いろいろと、お世話になりましたから……」




 この世界に迷い込んだ時、一番最初に会ったのがこの2人の神父様だった。

 そして彼らのお陰で、私は無事に、ここまでたどり着くことが出来た。

 それに、その時は私1人じゃなかったから、不思議と不安になることはなかった。



 けど今は……、今はいつも側にいた人が、ここにいない……。




「……彼女には本当、毎日驚かされるわ」

「えっ……?」

「今朝なんて、アベルと一緒に歩いていたら、後ろから華麗な飛び膝蹴りをして来てね。
彼、おもいっきり顔面スライディングして、ちょっと可哀想だったわ」




 呆れた表情を浮かべながらも、何だか楽しそうに見えてしまう。

 そしてそのお陰で、不安が一瞬のうちに消えていく。

 これが、彼女の持つ力なのかもしれない。




「彼女、初めて神父アベルに会った時からそうだったんですよ」

「ということは、あなたからして見れば相変わらず、ということね」

「ええ。……本当、相変わらずなんだから……」




 何だか、すごくホッとした。

 彼女が元気だということだけで、こんなに力が抜けるだなんて。




「……?」




 少し困ったように声をかけられて、初めて自分が泣いていることが分かった。

 どうしてなのか分からないけど、涙が止まらない。




「ご、ごめんなさい。どうしたんだろう、私……」




意味不明の涙を流す私に、まるで髪を撫でるように置いた手は温かくて、

 思わず甘えてしまいそうになる。

 本当は敵なはずなのに、何故か不思議と、そんなことがどうでもよくなっていく。



 横から聞こえる歌声が、まるで私の心を慰めるかのように耳元に届けられる。

 温かくて、優しくて、柔らかくて。

 私の中にある靄をすべてなくしてしまうような、

そんな不思議な力に包まれていくのが分かる。




 春の暖かな風、目の前で舞い散る花びら、そして「天使」のような歌声。

 3つが1つになり、私の体をそっと包み込む。

 出来ることなら、ここから離れたくないぐらいに。



 けど……、それも長くは続かなかった……。







「どこかで聞いたことがある声だと思ったら……、やっぱりあなたでしたか、シスター・




 後方から聞こえた声に、真っ先に反応したのはシスター・の方だった。

 私は少し立ってから、と言っても数秒しか差はないけど、

 ゆっくりと後ろを振り返る。




「お久しぶりですね、シスター・。前回お会いしたのは、いつでしたっけ?」

「あなたと会ったことなんて、その場ですぐに、きれいさっぱり忘れているわ、マタイ」




 彼女の顔を見たところ、どうやら彼のことが不得意な様子。

 揉め事にならなければいいんだけど……。




「あなたも、ここで何をしているのです、シスター・? まさか、
派遣執行官と仲良くお喋りをしていた、と言うんじゃないでしょうね?」

「ちょっと、マタイ。彼女が誰と話そうが、あなたには関係ないことでしょ?」

「相手が派遣執行官じゃなければ、私は誰でもいいですよ」

「あなたねえ……」

「ま、これ以上言うと、あなたがくれたというチーズスフレにありつけなくなりそう
なのでやめておきます」

「別にあなたのために焼いたんじゃないのよ。近頃、メディチ猊下にお会いしていなかっ
たから、その謝罪の意味も込めて作ったの」

「あなたの上司でもあるまいし、『猊下』と呼ぶのはやめた方がいいですよ、シスター・

「それを決める権利なんて、あなたにはないはずだけど?」




 ブラザー・マタイは、国務聖省に一番嫌われているらしい。

 以前、誰かがそんなことを言っていたような気がする。

 彼女も彼のこと、嫌いだったしな……。




、この男だけは気をつけなさいよ。餌食になっちゃ駄目よ!!」

「そんな言い方、やめてくださいませんか? それではまるで、猛獣みたいじゃないですか」

「猛獣よりも太刀が悪いでしょう、あなたは……」

「大丈夫です、シスター・。そんなに簡単に、彼の罠にははまりませんから」

「……あなたもなかなか言いますね、シスター・




 同僚に言われたら、彼だってそう簡単に反論出来ない。

 ここ数日、彼と共に行動を共にして掴んだコツだった。

 これさえあれば、しばらくの間は安泰なはず。

 ……たぶん。




「それじゃ私、タイムリミットだから行くわよ」

「はい。あなたのお茶は、次回まで取っておきますね」

「取っとかなくていいわよ!」




 鋭い突っ込みを入れた、彼女は後ろを振り向いて移動をし始める。

 その姿をじっと見つめていると、彼女の背中から、何かが大きく広がるのが見え、

 思わず目をこすってしまう。




「? どうしましたか、シスター・?」

「いえ……、……一瞬、シスター・の背中から、大きな翼みたいなのが見えたのですが……」

「そうですか? 私には見えませんが……。……きっと、名前に騙されいるんですよ」

「名前に? ……あっ」




 “フローリスト”。「神の力を持つ天使」。

 天使のような笑顔を持ち、天使のような歌声を持ち、

 そして天使のような人を敬う気持ちを持つ人。

 すべてがすべて名前通りで、私は思わず背中を向けて歩く彼女を呼び止めてしまう。




「シスター・!」




 ゆっくり振り返れば、少し驚いたようなシスター・の顔。

 青と緑がきれいに混ざった瞳に、思わず吸い込まれそうになってしまいそうだ。




「また……、またここで、歌ってくれますか?」




 突然の申し出に、彼女は少し困った顔をしたけど、

 それはほんの数秒のうちに笑顔へと変わっていった。



 そう、「天使」にも似た、あの笑顔に。







「いいわよ、。ただし、余分なのを連れて来ないでね!」







 満弁の笑みを溢して言う彼女の顔が、私の脳裏に焼きついていく。

 そして次に会う時まで、歌の練習をしようと誓った。









 今度は私が、彼女に歌を披露しよう。

 彼女と同じ、アルビオン語の曲を。



















紅野様との相互リンクの記念品です。
どちらにしようと悩んだ結果、教理聖省夢主さんになりました。

春にした理由は特にありません。何となく春かなぁと思っただけなので(汗)。
日本語が話せる設定なのは、確かサイトの方で、アベルが日本語で話して、
そこから拝借しました。
同じようなポジションにいる人ですので……。

そして、マタイも出してみました(笑)。
うちの夢主はマタイが天敵(に近い)ので、こんな感じの対応です。
久しぶりにしてはうまくかけたので、この部分は納得です。


と、いうことで紅野さん、こんな感じになりました。
夢主の設定とか性格が違っていたらごめんなさい!
書き直しなら、何十回でも何百回でも受け付けます(本当だな!?)!!
これからも、こんなへたれ管理人ですが、よろしくお願いします〜!!





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