“イシュトヴァーンの聖女”と呼ばれるようになってから、早5日立とうとしている。 の身のこなしは実に手馴れており、
「明日はローマに戻って、すぐに新聞記者達による取材が入っているわ。それまでに、
本当は疲れているはずなのに、エステルの前で笑顔を絶やさないに、
「大丈夫ですよ。さん、こういうことには慣れてますからね。エステルさんの知らないところで、
不安な顔をしたエステルに、護衛を任されていたアベルは微笑む。 外の空気を吸いたいからと、エステルは部屋を出た。 階段を下りて、外が見れる廊下へと出る。 その、温かい日差しが入り込んでいる森林で、エステルはある1つの木を見つけた。 その木の木陰には、何かが横たわっているように見えて、 だが、そんなエステルの不安も、近づくにつれてなくなっていった。
「、さん?」
なぜなら、そこにいたのはだったからだ。
「………………ね、寝てる………………」 着慣れない白の尼僧服に纏ったは、黒のスケジュール表を横に放り投げ、
「やっぱり、疲れていたんだわ……」
安らかに眠るの寝顔を見ながら、エステルはぽつりと呟く。
「うわぁ…………」
木々の間から差し込む光の景色に、エステルは思わず声を挙げてしまう。 見えやすくするため、エステルはの隣に寝そべってみる。
「気持ちいいなあ……」
よく考えてみれば、こうしてゆっくり休むのは久しぶりだった。
「ふあ……っ。私まで眠くなって来ちゃった……」
瞼が次第に重くなってくるのを感じ、エステルは目を擦りながら、睡魔に打ち勝とうとする。
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どれぐらい眠っていただろうか。はゆっくりと瞼を開けた。
「………………エステル………………?」
エステルの顔を見て安心しつつも、何故彼女がここにいるのかと首を傾げる。
「アベル、聞こえる?」 『ああ、さん! 目が覚めましたか!?』
隣で眠る尼僧の自室にいると思われる人物に話し掛ける。
「ちょうど、今。それより、聞きたいことがあるんだけど……」 『私も、さんに聞きたいことがあるんです! あの……』 「エステルなら、私の隣で眠っているわよ。あんなに彼女から目を離すなと言ったはずだけど、
寝起きなのも手伝ってか、の声は少し苛立っているように聞こえる。
『いや、あのですね、外の空気を吸いたいとおっしゃったので、一緒について行こうとした 「それで、彼女の姿を見失ってしまった、というわけね。……本当、食べ物に弱いんだから
ここ数日、毎日のように大食いをし続けているというのに、彼の胃袋は無限大らしい。
「しばらくの間なら私が見ているけど、それも10分が限界ね。ボルジア枢機卿との打ち合わせに、 『それまでには、必ず合流しますよ。それよりカテリーナさん、単なる風邪だとおっしゃってましたが、 「……そうね……」
アベルとが席を離れてすぐ、カテリーナが倒れたという報告があり、 公の場では、彼女は風邪を引いたということになっていた。
「……ま、トレスもそばにいるし、本人が風邪と言うなら、そうなんだと思う。 『そうですね……』 「私はこのまま、エステルのそばにいるから、10分後に絶対に来るのよ」 『ああ、はいはい。分かりました』
アベルの声がここで途切れると、は大きくため息をついた。 自分にかけていたストールを、エステルが起きないようにそっとかける。 イシュトヴァーンに着いてから、エステルが休むことなく動き続けていることを、
(まだ18歳で、いろんなことがしたい年頃なのに……)
そっと、彼女の頭に触れると、安心させるかのように撫で下ろす。 そう言えば昔、自分に妹がいたら、などという話をしたことがあった。
(妹、か……)
「人間」なんて、彼女にとってはどうでもよかった。 悩めば悩むほど、は大きな渦に巻き込まれていくかのような感覚に襲われた。
(……やめよう。悩んでいる姿を見たら、アベルとエステルが心配する)
エステルの体が動いたのは、が結論を出した時だった。
「目が覚めたかしら、エステル?」
優しく声をかけると、エステルは何かに気づいたのか、勢いよく目を開けた。
「いけない! あたし、そのまま眠ってしまって……、……あれ、このストールは……」 「それは私のよ、エステル。……どうやら、無意識のうちに眠ってしまったようね」
あたふたしているエステルの姿に、は思わず笑ってしまいそうになる。
「ごめんなさい、さん! 折角のお休みのところを、お邪魔してしまって……」 「それはいいのよ。あなたに何も言わずに、勝手に休んでいたんですもの。 「そんな、さんは謝ることなんて、これ1つも……」
両手と首を左右に振りながら、エステルは必死になって否定する。
「それより、いくらアベルが食べ物に弱いからって、それを抜け出す手段に使うだなんて考えたわね」 「……ご存知、だったんですね」 「もちろん」
アベルとの間に、何らかの「繋がり」があることをエステルは知っていた。
「とにかく、イシュトヴァーンにいる間だけでもいいから、1人で勝手に行動しないこと。 「はい。本当、ご迷惑をおかけして、すみませんでした」 「その言葉、私じゃなくて、アベルに言う台詞でしょう?」
そんなの言葉を読んだかのように、遠くから誰かが走って来る音がして、
「よかった、エステルさん。やっと見つけましたよ」 「すみません、神父さま。ちょっと、1人になりたいと思っていたので」 「なら、ちゃんと私にそう言って下さい。物で、しかも、食べ物で脅すだなんて酷いですよ」
ヘロヘロになっているアベルに、エステルは苦笑し、
「……さて、私は時間だから、そろそろ行くわ」
名残惜しそうにその場に立ち上がり、土を掃うように尼僧服のスカートを軽く叩く。
「あっ、いけない!!」
エステルが慌てて手を伸ばしたが、その時には、ストールはその場になかった。
「……あれ?」
拍子の抜けた声を出した時には、は2人に手を挙げて、
「? どうしましたか、エステルさん? 冷えましたか?」
アベルの声で、エステルははっと我に返る。
「いいえ。……何でもありませんわ、神父さま。さ、部屋に戻りましょう。あたし、 「そうですね〜。ここは結構温かいですが、長時間いると風邪引いてしまいますしね」
ずっと手に持っていたストールをエステルの肩にそっとかけると、手をそっと差し出した。
そんな温もりを感じながら、エステルはアベルと共に、 の跡を追うように大司教館へ戻ったのだった。 |
無理やり終わらせた感があってすみません(汗)。
とエステルは、すごく姉妹っぽく見えます。
妹を心配する姉のような。
しかし、がエステルを心配する理由はちゃんとあります。
それがROM5〜6にかけて明らかにされます。
ごうご期待です。
アベルとエステルとの三角関係も好きです。
いえ、エステルとがアベルを取り合う、という三角関係じゃなく(聞いてない)。
アベルももエステルが大切で、エステルは2人を信頼している。
そんな関係だと思います。
私が書くトリブラは、いろんな三角関係があるんですけどね。
それも少しずつ書いていきましょう。
ちなみに今回、ちょっと試しに形式を変えてみました。
ご意見、お待ちしております〜。
(ブラウザバック推奨)