久々にローマに来たのはいいが、"剣の館"に入った瞬間、 少し前にここで久しぶりに出会った昔馴染みの出会った。 それはいいのだが、は思いっきり顔をしかめて呟く 「…………………暗っ」 元々はっきり物事を言う方ではあるが、ここまではっきりと言われれば 嫌味どころか、自分がどんな顔をしているのか鏡で見たくなるほどだ。 その言葉に、言われた相手は呆れたように苦笑する 「なによ、人の顔見て第一声がそれって」 「いや、久しぶりに見たのにそんな顔されて出迎えられたら、素直に言葉が出ちまってな」 口元を押さえながらも、その表情は一切悪びれた様子は無い。 それほど暗い空気でも放っていると言いたいのだろうか だが、そんな様子もつかの間、直ぐにけろりと表情をいつものものへと戻した相手は 口に愛用の煙管を銜えながら問いかけてきた 「で、どうした?」 「なんでも―無いっていうんだったらとりあえずミラノ公に面会だな」」 人の言葉を遮った相手の顔には常からそこにある、少しだけ余裕の見える表情。 いつもならその顔は頼り甲斐のあるものに見えるのだが、 今日に限っては酷く子憎たらしいものに見える 「……相変らず卑怯な手段ね」 皮肉を込めて、ため息と共にそう吐き出してやると相手はその皮肉に気がついていないのか、 それとも気がついていながらも無視しているのか分からないが、その笑みは崩れない 「上手い手段って言えよ」 煙を吐きながら、少しだけ喉で低く笑う。 その笑いも煙も不快に感じないのは、その煙がニコチンではなく香草のそれである為と、 彼自身、悪気など全く無いから そんな相手の毒気の無い態度に、も少しだけ頬を緩ませた それを見た男は再び煙を吐くと、今度はその空の蒼のような瞳を 少しだけ真剣さを帯びさせる 「で、どうした? 三度目言わせる場合は― …こちらも色々と考えがあるが?」 の蒼の瞳が微かに光を帯びたことに、も彼の本気を悟る。 こういう時の彼はあの頭脳戦に長けたカテリーナですら手を焼く相手となるのだ。 うかつな嘘をつけば瞬時に見破られ、本当に何をされるか分かったものではない 「……アベルと……」 口を出たのは いつもは隣にいる人 「ナイトロードと?」 それを反芻する声は いつも隣にいる人の声とは違う声 「喧嘩、したの」 肺の中にある空気全てと共に、その言葉を吐き出した。 呆れただろうか 笑われるのだろうか 普通なら こんな些細な事で暗くなる自分を笑ったり呆れたりする者は少なくはない それだけ 些細な事 だが ― 「ほう」 返るのは短い相槌 笑い声やため息ではない 相変らずの彼らしい反応に、は苦笑しか返せない 「理由、聞かないの?」 「聞いてどうする?」 「それはそうだけど…」 聞いて欲しい訳ではない でも、それでも興味を引かれるのが人であろう 現に目の前の男は、話せば何も言わずに聞いてくれるだろう だが、は静かに煙管を口から外すと、長く煙を吐いた。 その真実を見極める蒼の瞳は伏せられている 「それはナイトロードと、の問題だろ、俺の踏み込める場所じゃない」 開いた蒼が彼女の隣を見る。 そこはいつもなら銀髪の長身の男が立っている場所。 その視線の意味に気がついて、はため息混じりにその男の所在を呟く 「……任務よ」 「そうか。得意のそれは?」 指差されたのは、が沸きに抱えていたもの。 それを横目に見ても、苦笑を零すことしか出来なかった 「任務の性質上、通信は出来ないの」 任務の内容は詳しくは聞いていない。 いつもならそれでもどうにかして連絡を取ろうとするだろうが今回はそんな気になれないのだ 気がつけばため息と共に言葉が零れていた 「タイミング悪いのよね、私も、アベルも」 「だな」 短い答え それには優しい言葉を敢えてかけない彼らしさにくすりと笑いながらも わざとひねた言葉を返した 「そういう時は、嘘でも そうか? って言ってくれるもんじゃない?」 「間が悪いのは今に始まったとこじゃないだろ」 喉で笑うその声に、ついつられて笑う。 アベルとは違う彼の空気に、波立っていた感情が穏やかになる。 それが何故なのか分からないが、別にそれを追求しようと言う気にはなれない。 そんな事も、もうどうでもよく思えてきた 目の前にいる彼は彼だから 「何だかと話していると、喧嘩していた事も馬鹿馬鹿しく思えてきたわ」 「光栄だな」 少しだけ風が匂う 彼のふかしていた香草の匂いが微かに香る ふとが何かを耳元から外してに投げ寄こす 「、これやるよ」 「……イヤーカフス?」 手に受けたものは、見慣れたイヤーカフスとは少し形の違うもの。 装飾品は一切なく、ただの銀の鎖がもう一つの銀のカフスに繋がれている その繋がれた鎖が少しだけ羨ましく見えた 手のものを少し悲しげに見下ろしているの頭に まるで励ますかのように優しい重みがかかる。 それがいつの間にか隣を通り抜けようとしていた相手の大きな掌だった 「そ。 俺は席を外すからじっくり話し合えよ。お二人さん」 「…え?」 振り返った時には、既に頭の上にあった重みは消えていた。 見えるのは、その広い背中だけ 肩越しに振り返ったその瞳がなぜか楽しげに細められた 「俺はアッシジからここまで走り詰めで疲れたから、少し休んでからまた来ると あんたの上司に言っといてくれ」 「アッシジって……」 <…任務に行って来ますね。今回はアッシジなので、少々時間がかかってしまうかもしれませんが…> 思い出したのは 今 一番会いたい人の別れ際に交わした言葉 怒って返事をしなかった自分に彼が去り際に残した言葉だった いつもなら、自分にも会わずに目的だけを果たして帰る相手が目の前に現れた のを少し不思議に思っていたのだが、まさかこんな裏があったとは 「」 「ん?」 肩越しに振り向くだけの蒼い瞳を見返した蒼と緑の混じった不思議な、でも穏やかで美しい瞳は その色に相応しい微笑を浮かべてみせた 「ありがとう」 その言葉に振り返らずに、高い影は手を振ると長い廊下に消えていった |
『execute black』 幸里 徭 2005// |
幸里さんの帝国男主さんに慰めてもらいました(爆)。
帝国夢主さんラブなので、本当に嬉しかったです。
本当、羨ましい奴め。
今度は私を慰めて下さい(そうじゃないだろう)!!
本当に素晴らしい共演夢、ありがとうございましたー!!
(ブラウザバック推奨)