目を開けた時、は水の中にいた。

 苦しくはない。

 どこかから酸素が取り込まれているのであろうか。



 気持ちいい。

 まるで、何かに包まれているかのように、温かい。

 自然と力が、抜けて行く。







 鼓膜を打つ音に、は辺りを見回す。

 だが彼女以外の姿は、どこにもない。







 この空間と同じぐらい温かな声。

 まるで「水」のように、透き通っている。







 3度目に聞こえた時、は小さな光を見つけた。

 少しずつ大きくなり、次第に人の形へと変わって行く。




「こんにちは、




 ゆっくりと近づいてくる光に、は思わず後退りしてしまう。

 それとは反対に、光の中の人物は笑顔だ。




「……誰?」




 恐る恐る、声をかけてみる。




「あなたは、誰?」

「私は。あなたの『仲間』よ」

「『仲間?』」

「そう、『仲間』」




 「仲間」。

 彼女は確かに、そう言った。

 しかしは、相手に会ったことも、名前を聞いたこともなかった。




「ウィル――“教授”から、何も聞いてないみたいね」

「“教授”とお友達なの?」

「ええ」




 「“教授”と友達」。

 それはつまり、Axの1人だということ。



 Ax。

 それは、の「仲間」がいるところ。

 つまり彼女も「仲間」ということ。




「私の、『仲間』……」

「ええ、そうよ」




 再び見せる笑顔に、は胸の中で何かが弾いた。

 この感覚が何なのか分からず、鼓動が少しずつ早くなる。




「どうしたの、?」

「……分からない」

「分からない?」

「すごく、ドキドキしてるの。何なのか、分からない」




 の言葉に、相手も意味が分からず首をかしげる。

 だがそれは、すぐに安堵の表情へと変わって行った。




「……ありがとう」

「え?」

「こっちの話よ。気にしないで」




 は気づいていない。

 自分が今会ったばかりの相手のことが、気になり始めているということを。

 そしてそんな彼女のことを、もっと知りたいと思っていることを。




「手を出して」




 光に包まれた手が、の前に差し出される。




「そろそろ、みんなの所へ戻らないといけないから」

「みんなの、所?」

「そう。さ、行きましょう」




 言われるがままに、は手を差し出す。

 しかし相手の手の届く前に、それが引っ込めてしまう。




「……出来ない」

「え?」

「戻ること、出来ない」




 迷惑をかけていることは分かっている。

 意味が分からないかもしれない。

 それでもは、自分の意見を変えることはなかった。




「わたしが戻ったら、あなたが1人になる。そうなったら、あなたが淋しくなるから、戻れない」




 その言葉に、相手が一瞬、驚いたように目を見開く。

 どこか悲しそうに俯くその姿は、の心の優しさが伝わって来るようだ。



 そんな彼女に、心の底から、感謝の言葉を贈りたかった。




「……ありがとう」

「え?」

「心配してくれて、ありがとう」




 光に包まれた手が、の頭に触れる。

 そっと撫でられると、不思議と安心するのが不思議だ。




「私は大丈夫よ。また会えるって、信じているから」




 はっとなったように、相手の顔を見つめると、

 彼女はを慰めるかのように目を細めていた。



 また、会える。

 これが永遠の別れではない。

 またこうして、会えばいいのだ。




「だから、悲しまないで」




 慰めるかのように微笑み、そして再び手を差し出す。

 そんな彼女に、は再び確認をする。




「本当に、会える?」

「ええ」

「本当に?」

「本当に。だから、戻りましょう。みんなが待ってるわ」




 少しだけ伸ばした手に、は自分の手を差し出す。

 不安だったけど、彼女の言っていることは間違ってないと思い、

 そっとその手を握り締めた。






 今度はいつ会えるだろう。

 そんなことを思いながら、はゆっくりと目を閉じた。









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 次に目を開けた時、はいつもの水槽の中にいた。



 天井の蓋をゆっくりと捻り、大きく開くと、溶液から這い上がるかのように頭を出した。

 それに気づいた“教授”がバスタオルを取るために立ち上がる。




「ようやく目が覚めたようだね、

「うん」




 水槽から出たにバスタオルを渡すと、“教授”は隣接している執行室へと姿を消す。

 は手渡されたバスタオルで体を拭くと、椅子に置かれた僧衣に身を通した。



 いつもよりも目覚めがいい。

 それも、あの水の中にいたお蔭なのだろうか。

 それとも、彼女のお蔭なのだろうか。




『私は大丈夫よ。また会えるって信じているから』




 今度はいつ会えるだろうかと、は思う。



 会って、もっといろんな話をしたい。

 自分のこと、Axのこと、そして彼女のこと。

 そして何より、あの温かな空間に、また行きたい。

 そう願いながら、は教授が消えた扉の奥へ向かった。




「あ、さん。おはようございます〜」

「おはよう、アベル」




 外には太陽が散々と輝いていたが、は今まで眠っていたからか、

 自然とアベルも朝の挨拶をする。



 いつも決まっている椅子に腰掛けると、

アベルのテーブルの前に置かれているものに目が止まる。



 1枚のお皿にティーカップが4つ。

 それと、色とりどりの果物が飾られているフルーツタルトが1ホールある。



 はよくお菓子を作っては、みんなに振舞うことが多い。

 だがこのケーキは、彼女が作ったものではなかった。



 それでは、一体誰が作ったのだろうか。




「どうやら、全員揃ったようね」




 後方から聞こえる声に、は勢いよく振りかえった。



 聞き覚えのある声。

 とても優しく、安心する声。

 そして浮かぶ、あの笑顔―――。






「おはよう、。また会えたわね」






 微笑むその顔は、“教授”が前教えてくれた「天使」のように、温かかった。


















わにさんの相互リンク贈呈品です。

機械と融合しているちゃんに、“神のプログラム”に育てられたなので、
こういう話があってもいいかなと思って書いてみました。
一応、設定を見ながら書いたのですが、違うところがあったら指摘して下さい(汗)。

ちゃんは本当に可愛いくて、妹にしたいぐらいです。私が(え)
純粋なところがいいんですよね。
機会があれば、ドゥオを交えての共演夢とかも書いてみたいものです。

ちなみにどうして「水」なのか、と言うと、ただ単にとの相性が合うからです。
それ以外にも理由がありますけどね(謎笑)。
詳しくは、後々本編で、ということで見逃してください(汗)。






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