甲高い音が、練習場に響き渡っていく。

 剣と剣が重なり合う音である。



 「本気で手合わせをして欲しい」。

 ユーグのその一言に、は最初断ったが、

 真剣な眼差しに負けて、“教授”から借りた剣を振るうこととなったのだ。



 “教授”から伝授されたユーグの剣裁きに、

 は独自で身につけた、まるで踊っているかのような動きで、

 相手の剣を受けていく。

 華麗で、華やかなその姿を、審判役を買って出た“教授”は、

 少々惚れ惚れとして見つめていた。

 めったに見ることのない姿だっただけに、他のAxメンバーにも見せたいぐらいだ。



 だが、力ではさすがに勝てないのか、それとも手を少し抜いているのか、

 少しだが顔を顰め始めた。

 これはさすがに、普通に剣術だけで対応するのは難しそうだと判断したは、

 ある手段に出ることにした。



 ユーグの剣が襲ってくるタイミングを狙って、

自分の剣を使って、それをうまく外側へ向けて弾かせる。

その瞬間、の膝が鳩部に向かって飛んできたのだった。



 剣で勝負をしているのだから、体を使うのは通常では反則である。

 それを言うかのように、ユーグが少し間のあいた先にいるに目を剥いた。




「これは、反則なのではないか、?」

「実践に近い練習をしたいと言ったのはそっちでしょう?」

「確かにそうだが、剣以外のものを使っていいなど……」

君の言う通りだよ、ユーグ」




 講義するユーグを止めるように、隅で審判役をしていた“教授”が口を開く。




「戦闘中に飛んで来るのは刀だけではない。それに、君は剣術に体術を時に混ぜてくる

戦闘方法が得意であることは、君も知っていたはずだ」

「……分かりました」




 堰き込みながらも、さらに闘志が沸いたのか、ユーグはふっと不敵な笑みを見せる。

 一方は、少し体力を消失しているのか、肩で息をしている。

 しばらく刀すら持っていなかったのだから、仕方がないと言えば仕方がないのかもしれないが、

 まさか、こんなに困難になるとは思ってもいなかった。




(少しだけ、本気になった方がいいのかもしれないわね)




「行くわよ、ユーグ!」




 床を軽く蹴り、ユーグがいる位置まで瞬間移動する。

 剣先が彼の顎のラインぎりぎりに旋回してきて、それを何とか避けると、

 すぐに体勢を整えて、下から襲ってくるの剣に自分の剣を重ね、弾き返す。

 しかし、そこからの反転が素早いは、再び相手に向かって剣を振るった。

 先ほどよりも早いスピードで行く相手に、今度はユーグが追いつけなくなり、

 そして……。




「くっ!」




 膝をついたのと同時に、喉元に剣先を向けられてしまったのだった。




「勝負、決まったみたいだね」




 “教授”がそう判断して、2人の側に近づいていく。



お互いに息を荒くしながら、はユーグに手を伸ばした。

 その手にしっかりと掴んで立ちあがるユーグの顔は、

 何かを実感したように満足そうな表情を見せていた。




「どうやら、私の勝ちみたいね」

「らしいな。だが、申し分ない相手だった」




 剣を“教授”に返しながら、は満足げなユーグを見つめる。

 そして、先ほどから引っかかっていたことを聞くことにした。




「ユーグ、どうして私を練習に誘ったの? 確か、あなたの前で剣を振るったことはないはずよ」

「ああ、それだったら、僕がユーグに教えたんだよ。君が剣術も得意だ、てことをね」

「その場にいたアベルが、自分のことかのように自慢するみたいに語ってたしな」




(あの大馬鹿阿呆神父が……)




 脳裏に横切ったへなへな顔の銀髪の神父に向かって、

 おもいっきりどっ突きたい衝動を押さえながら、は呆れたようにため息をついた。

 だが逆に、自分の体力を知るいい機会でもあったのだから、

 あまり彼を責めるのはよくないと判断し、心の底に押し込んだ。




「あのへっぽこ神父はいつものことだからいいとして、ウィルもウィルで、何で教えたりなんてするの?」

「僕はただ単に、君が剣を振るう姿を見たかっただけさ」

「それだけ?」

「それだけだよ」




(お互い、大した理由じゃない、ってことね)




 再びため息をつきながらも、ユーグの満足が行く相手だったということで、

 とりあえず自分に納得させようとする。

 そして、すっと彼の前に右手を差し出した。




「どっちにしろ、いい練習だったわ。ありがとう、ユーグ」

「こっちも、手伝ってくれてありがとう、






 2人の手がしっかりと握られ、お互いの敬意を賞す。

 ふっと向けられたユーグの微笑みに、もご自慢の笑顔を向けたのだった。









(スクルー、また練習するわよ)

『了解した、我が主よ』
















巴さんのリクエストで、「に勝負を挑むユーグ」と「不敵に笑うユーグ」でした。
設定まで考えて下さったので、あとはつたない文才力をフル回転させて書いてみましたが、
いかがだってでしょうか?


時間軸としては、RAM4の「Judgement Day」が終わった頃だと思います。

その時間帯が、一番いいんじゃないかと。
本当はRAM6の短編用に考えていたネタでもあるので、
私としてもある意味よかったです。
本当にありがとうございます!
そして、遅くなってしまって申し訳ありませんでした(滝汗)。


あ、ちなみに「Where to begin」はTRFのシングルから取りました。

BGMとしても使っていたので、これを聞きながら読むと、
もしかしたらもっとリアルに読める…………かもしれません(汗)。






(ブラウザバック推奨)