「はッ、ヴァチカンも他愛のない!」


 尼僧の格好を説いた吸血鬼、ミレーユ・マンソンは、自らの成功を祝福するかのように笑っている。
「ようやく会えたわねえ、化け物ちゃん。初めまして、というべきかしら?」
「挨拶なんてどうでもいいわよ、おばさん」


 エリスの迫力に衰えはないらしく、ミレーユ相手に抵抗を続ける。
 しかし、それに怯むことなく、ミレーユは続ける


「あんたをとっても欲しがっている方々がいらっしゃるのさ。……あんたが隠れてた施設のことを教えてくれたのも、その方々さ」
「……!」
「お前は怪物だ。人間ともなければ、あたしらとも違う。……お前の見方は誰もいない」
「あたしには、誰も、いない……。あたしは……」



「エリスさあああああああああん!」



 外から聞こえる声に、列車の中にいる者達が、一斉に外を見る。するとそこにあるのは、空中船艦が横を飛んでいたのだ。
 そのゴンドラから下がったロープには、アベルとがしっかりと掴んでいた。


「ちょ、ちょっと、アベル! 今、私を落とそうとしたでしょ!?」
「そんなことするわけないじゃないですか! ケイトさん! もっと寄せて下さい! 飛び降ります!」
<これ以上は無理です! それより、アベル神父、シスター・、本当にこれって任務なんでしょうね? カテリーナ様から許可は戴いているんでしょうね? いきなりよびつけられて来てみれば……>
「許可はOKです。……後でちゃんともらいます」
<は!? 今、何て? なんか今すごい不穏当な発言なさいませんでしたかこのダメ神父!?>
「お願い、ケイト。その中に、私を含めないで〜!!」
「いいから、もっと寄せ……、あわっ!?」


 アベルが指を滑らせ、強風に煽られロープが撓み、ずり落ちた神父は、大きく振り子を描いている。
「ア、アベル! 危ないってば!!」
「の、のわわ……、のわあああああっ!!」


 変な叫び声とともに、アベルはそのままガラスに突っ込み、そのまま車内へ入っていった。
 は何とかそれに耐えぬき、ロープに捕まっていると、自分も何とかして飛び降りようとした。


「ケイト! 猊下には私から許可をもらうから、今回だけは見逃して!」
<心配いりません。アベル神父だけにしておきますから>
「出来れば、アベルも許して欲しいんだけど……、ま、仕方ないわ。そんじゃ……、行ってきます!」


 が前に屈むと、アベルが割ったガラス窓に掴みかかり、ガラスの破片に気を使いながら、中に入っていく。
 それと同時に、右手に銃をしっかり持ち、サブマシンガンモードで一気に倒していった。
 アベルだけでなく、の登場に、エリスは少し驚いたように2人を見つめ、呆然と口を動かした


「何で……、何で?」
「やだなあ。言ったじゃないですか。私は、あなたの見方です――って」
「……度胸があるのか、ただの馬鹿か」


 目の前にいる女吸血鬼が、30センチは伸びた爪を壁に突きつける。
 それに反応するように、アベルとは、敵の顔を睨みつける。


「“悪の華”の皆さんね? あなた方を、80件の殺人および血液強奪、未成年略取の容疑で逮捕します。すぐに武装を解除して、投降しなさい!」
「はッ、ほざくな! 貴様ら2人で何が出来る!」
「否、――誰がそいつら2人だと言った?」


 その言葉とともに、轟音とともに天井が割れ、無数の銃弾が厚い鋼板を突き破り、そこからトレスが入って来た。
「う、撃て! 撃ち殺せ!!」
「0. 27秒遅い」


 M13で攻撃をしつつ、相手を一気に倒していく。
 それを援護するように、もサブマシンガンモードで攻撃を繰り出す。


「2人とも、殺しちゃダメです!」
「当然!」
「了解。……こいつらには聞くことが山ほどある」


 しかし、それと同時に弾が切れてしまい、トレスは手首を振ると同時に、空の弾倉が銃把から落ち、新しい弾倉が収められ、頭上へ3連発打ち込んだ。


「ぐがっ!」


 天井から剥がれ落ちてきた鋼板に串刺しにされ、ミレーユはそのまま縫いとめられる。
 そしてその間に、トレスとによって、すべての吸血鬼が無事に倒された。


「戦域確保。戦術思考仕様を強襲から索敵攻撃に書換え。……損害評価報告を、ナイトロード神父、シスター・
「な、何とか生きてます……、たぶん」
「こっちも、無事よ。さっき、傷も治したから」


 ここに到着する前に、“アイアンメイデン”で「力」を使い、アベルと自分に負った傷を速やかに治したため、すでに傷の跡すら残っていなかった。

 エリスの不思議そうな顔をしてを見つめたが、彼女は微笑みを1つだけ見せ、彼女の心に、何か、温かいものを与えただけだった。
 けど、この温かさは、一体……。


「大丈夫でしたか、エリスさん?」
「う、うん……、あ、危ない!」


 アベルによって鎖を解かれたエリスが叫ぶと、後ろから、串刺し状態だったミレーユが起き上がったのだ。
「避けて!」


 エリスがとっさに吹き飛ばしたため、トレスは何とか助かり、その代わりに、彼女の肩が少し切れてしまった。
 トレスが銃を掲げたが間に合わず、鋭い蹴りを食らい、M13が床に転がってしまう。
 それを見たも、すぐにフルロードモードに切り替えて攻撃し様としたが、ミレーユが近くにあったガラスの破片を投げつけ、それが銃を持つ手を切りつけ、そのまま落ちてしまった。


「0. 52秒遅いわ!」


 ミレーユが、爪を突き立てて突進してくるのが見え、はすぐに、もう1丁の銃を取り出そうとした。
 が、その前に、目の前で湿った音がして、思わず目を見開いてしまった。


「なにっ!?」
「……アベル!!」


 目の前に立っている相手の名前を、は驚いたように叫ぶ。
 ミレーユは必死に爪を抜こうとするが、思うように動かない。


「き、貴様、何者!?」
「人間ですよ。あなたや彼女と同じにね……」


 丸眼鏡を取って、後ろにいるに渡すと、アベルは目の前にいるトレスとエリスに、少し悲しげに笑う。
「トレス君、さん、彼女をお願いします」
「あれを使うのか、ナイトロード神父?」
「いいの、彼女に見られても?」
「ええ……。……それに、さんには、借りがありますからね」
「……え……?」


 アベルの言葉に、少しだけ驚いたように呟くと、はさっき、アベルが言っていた言葉を思い出していた。
 口約束ぐらいにしか、思っていなかったことを……。




「借りは、必ず返しますから」




 ……負けた。
 ふと、はそう思い、アベルの後ろでかすかに微笑んだ。


「……いいわ、アベル。気をつけて」
「ええ。私が暴走した時には、よろしく」
「もちろん。暴走したアベルを止めることが出来るのは……、私だけだからね」
「お願いします」
「し、神父さん!」
「エリスさん……、私、あなたに言っておかなくちゃいけないことがあります。
私も、あなたと同じなんですよ。私の体にも忌まわしい力が眠っている。そしてそいつらは、いつも私の魂を食らおうと狙っているんです」


 瞳が徐々に、鮮血のように赤く染まっていく。その姿を、エリスはずっと、見続けている。


「でも、私は生きるのを止めるわけにはいかない。償うべき罪から逃げるわけにはいけない。
ここで死んだら、私はただの化け物だ。私は人間であるために、この力とともに生きるんです……」



〔ナノマシン“クルースニク02”40パーセント限定起動――承認〕



「ば、馬鹿な!」
 アベルの胸に刺さったミレーユの爪が、粉々に砕け、床にこぼれる。
 とっさに飛びすさりながら、彼女は困惑したように、アベルに問い掛けた。


「貴様、長生種か!?」
「違いますよ……」


 床に広がっていた吸血鬼達の血が、アメーバのようにうごめき出し、床に触れたアベルの掌に吸い込まれていく。
「私はクルースニク。――吸血鬼の血を吸う、吸血鬼です」
「ほざけ!」
「“人は己の?を刈り取らねばならない” ――参ります」




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「大丈夫でしたか、エリスさん?」


 解除したアベルの服は、赤く染まってしまっていたが、目は元に戻っている。
「怪我は? どこか痛いところとかはありませんか?」
「……こ、殺したの?」
「……いいえ、動きを封じただけです」
「あ、あなたは一体……、何なの?」
「人間、ですよ……。あなたと同じ、私は人間です」


 エリスは何かを感じ取ったのか、おずおずとアベルの手に触れ、そして抱きしめたる。
 それを見たが、思わず「あっ」と言いそうだったが、必死になって押さえ込んだ。


「あ、ダメですよ。汚れちゃいます」
「うん。でも、もうちょっと……、もうちょっとだけ、このままでいい?」


 アベルはエリスの言葉を聞いて、不安げにの顔を覗いてみる。
 その顔が、どことなく謝っているように見えたため、彼女は小さく1つため息をつくと、彼にそっと微笑んだ。
「……構いませんよ」


 ちょっと安心したようにアベルは言うと、エリスの柔らかい髪の上に手を載せると、小さく息を吐いて笑った。
 その姿を見て、も少し安心したように眺めていた。

 だが、問題はもう1つ――。


「……トレス、まだ彼女が危険だとでも言いたいの?」
「肯定――。俺は言ったはずだ。彼女の意思など関係ないと」


 再びエリスに銃口を掲げるトレスを、しばらく見つめるアベルとが、少し警戒したようにトレスを見つめる。
「――須く、危険要素は排除すべきだと」
「!」


 アベルがエリスを背後に押しやり、が左側にあった銃を抜いたが間に合わない。
 重い撃鉄が落ちた音がしたが……、一向に撃ってこない。


「だが、今回に限って言えば……、弾丸切れだ。駆除作業は断念せざるをえん」
「……感謝します、神父トレス」
「そう言ってくれて、嬉しいわ。ありがとう」
「無用。――次はない」


 トレスの発言に、少しホッとしたは、アベルに隠れていたエリスに近づくと、彼女が傷ついた肩に、そっと手をかざした。


、さん?」
「いいから、じっとしていて」


 手を添えたところから、オーラみたいな光が出て来て、エリスが汚した部分を修正していく。
 そして光が消えた時、傷はすっかりなくなっていた。


さん……、あなたは、一体……」
「みんなと同じ人間よ、エリスちゃん。私も、アベルも、トレスも、そして……、あなたも」
「俺は人(マン)ではない、機械(マシーン)だ」
「あ、そうだったわね」


 が意味ありげに微笑むと、トレスは身を翻し、最後にちらりとエリスの顔を一瞥し、その脇を通り過ぎた。

 が、その時……。エリスの脇にあった血塗れの肉の塊が、襲い掛かろうとしていた。


「い、いけない、エリスさん!」




 振り上げられた腕には、長いかぎ詰めが忌まわしい光を放っているのを見て、それがすぐにミレーユだと分かった。


「まだ動けたの、こいつ!」
「じねええええええっ!」
「エ、エリ……!」


 が彼女を後ろに回し、左側にある銃を取り出そうとしたが、間に合わない。
 しかし……。


「…………」


 次の痛みを覚悟したが、背後から撃たれた銃弾が、吸血鬼の脳幹・頚椎、そして心臓を性格に食いちぎって、背中へと抜けていった。


「作戦終了。……撤収する」


 “拳銃使い”の声は常と変わらぬ冷たさだった。




 しかしその中に、かすかだが、彼なりの「気遣い」も、感じられていた。









ごめんなさい、アベル。結局、あなた1人で突っ込ませてしまったよ(爆)。
夢主は器用なので、持ちこたえました(笑)。

本当はこのあと、カテリーナ様に弁解をしようとする夢主の話を書こうと思ったのですが、
それはまた次回ということで、今回は却下です。
下手したら、毎回最後がカテリーナ様との会話で終わってしまいそうな気がしたので(汗)。
まぁ、そういう関係なので、別にいいんですけどね、えへ(アベルか、わたしゃ/笑)♪







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