ある1つの、今までみたこともない光景が飛び込んできた。
顔が思わずニヤリとする。 まるで、悪戯好きな子供のようだ。
トランディスの予想通りのものだった。
「俺が嘘つくとでも思うか?」 「ええ……って、違う! そうじゃありません!」 「落ち着くことを推奨する、ナイトロード中佐」
そんなトレスは、まだ来たばかりだというのに、 2杯目のウィスキーのロックに手を出そうとしていた。
「仕方ないだろう。今日はステージがない上、本人はルシアの代わりにカウンターを仕切らなきゃいけないんだからな」
今夜もその客の相手をしているため、ステージがないキリエとリエルが、 そんな彼女の代わりにカウンターでせわしなく動いていたのだ。
「俺は2人も面倒みたくないぞ」
一方トレスは、自分のことを気にしていることなど知ってか知らぬか分からないが、 さっさと話を進めようとする。
「いや、間違いない。ちなみに『リヴァラス』はテディベアの専門店だ」 「知ってます。クレアさんは幼い頃、テディベアが大好きで、シェイン様がコレクションルーム
テーブルの上で「の」の字を書いている。 まるで、拗ねた子供のようだ。
だが、まさか共に買い物をする、 しかもクレアの好きなテディベアを買いに行くとは予想もしてなかったことだった。
「お前が余計にショックを受けるからやめておく」
アベルは気づいていたであろうか。 いや、今の彼はそれどころではないであろう。
「不倫って言っても、ガルシアの奥さんは病死してるのだから関係ないだろう。……てかお前、 「俺はいつもと同じだ」
トレスが3杯目なのは異常以外の何物でもない。 相当キリエがいないことが不満らしい(え)。
「俺は倒れたりなどしない。なぜそのようなことを言う?」 「なぜって、そういう風に見えるからだろう」 「心配など必要ない。――それより今は、キース大佐とガルシア大尉の方が問題にある」 「お前も十分問題だ」
だがその心配も、どうやらする必要がないらしい。
「ああ、こいつのことは気にするな、キリエ。カウンターの方は大丈夫なのか?」 「はい。ルシアのお客様はお帰りになりました。まだリエルは残ってますけど」
トレスが反応しないわけがなかった。
「ありがとうございます、イクス大尉。……随分飲まれているようですが、何か大変なことでも 「否定。いたって平穏に過ぎた」
それはアベルとトランディスが自分達の関係を知らないからだと本人は思っているようだが、 事実、2人ともとっくにバレていた。
「ああ、いえ、キリエさん、私のことはもう放っておいて……」 「クレアとガルシアが、一緒に買い物しているのを目撃したんだ。で、それを言ったらこの様だ」 「クレアさんと、ガルシア大尉が?」
そしてその結果、すごい言葉が返って来た。 「ナイトロード中佐とクレアさん、別れてしまったのですか!!?」 「ぶっ!」 「ごほっ!」
キリエの顔を見れば、どこか悲しそうでいて、心配そうな表情を見せている。
「中佐、クレアさんと別れてしまったんですか!? あんなに仲がよろしかったのに!!」 「キリエ、まだそう確定したわけじゃ……」 「キース大佐の行動は法的に違反して……」 「酔っ払いは口出しするな、イクス!」
自分から話を切り出したとは言え、予想外の方向に進んでいることに、 心のそこで頭を抱えてしまいそうになる。
「何が面倒臭いことになったですって、ハザヴェルド将校?」
振り返ってみると、そこには正服姿で、 わざとらしく、しかしどことなく本気で睨みつけているクレアの姿があり、 鋭く視線を送っていた。 そしてクレアが階位を呼ぶ時、それは機嫌が悪い時以外に考えられなかった。
「すんごく最悪。あれじゃ、美味しいはずの料理も不味くなるわ」
その打ち合わせ内容に納得がいかなかったのだ。 とりあえずその場は逃れたが、いつまた振りかかって来るのか心配である。
「どうして俺がナイトロードを虐めないといけないんだ」 「やりそうだから言ったじゃない。それに、トレスも随分飲んでいるようね。明日は皇帝区大尉との 「俺は酔っていない」
自分もイラついているため、何も言えなくなってしまう。 とりあえず、キリエが用意してくれたグラスに氷を入れると、 ウィスキーを注ぎいれ、一口喉に通す。
「何かしら、キリエ?」 「ナイトロード中佐と別れたんですか!?」 「……はあっ!?」
とりあえず、事情を探ることにする。
「だってハザヴェルド将校が、先ほどクレアさんとガルシア大尉が一緒にいるところを見つけたって……」 「レオンと一緒に? ……ああ、あのことね」 「あのことって、一体全体、何なんですか!? クレアさん、私にはいつも隠し事なんて……」 「隠し事も何も、そんなことする理由なんてないわよ」
その理由は、実に簡単なことだった。
だが妻の遺伝なのか、彼女自身も体が弱く、病院生活を余儀なくされていた。 彼が軍に入隊したのは、彼女の医療費を半額負担してくれるからという理由もあり、 軍の中でそのことを知らない人はいないほどだった。
「あら、アベル。私を疑うっていうの? ちょっとそれ、傷つくわよ」 「わー! 違います! そういうつもりで言ったんじゃありませんよ〜!!」 「そうかしら?」
だがそれを言ってしまったら面白くないので、そのまま胸に閉まっておき、 煙草を取り出してジッポで火をつけた。
「本当、私もビックリしたわ。またトランディスが変な方向に話を進めたんでしょう」 「そんなつもりなどない。……ああ、そう言えば」
「……何ですってーーー!!?」
その目は飛び出さんばかりに大きく見開かれている。
「だから、俺も忘れてたんだって。悪かったな、ナイトロード」 「謝って済む問題じゃありません! 罰として、今日の清算、すべて払ってもらいます!!」 「毎回クレアに払ってもらっているヤツに言われたくないな」 「うっ……」
グラスに残ったウィスキーを一気に煽り、再び注いだ。
「それが、全然分からないんです。ねえ、何かあったの?」 「何もない。ただ飲みたかっただけだ」
心の中で呟く声は、当の本人に聞こえることなく、ゆっくりと消えていった。 |
実は1つ前の話より、
こっちの方が先に完成していました(笑)。
えへっ。
いや、レオンとクレアって、同じようなものが好きなので、
付き合っていると勘違いされる時があるんじゃないかな、と思ったのが最初でした。
バイク好きだし、改造好きだし、酒豪で喫煙家だし。
軍人パロクレアは、子供も好きだから、きっと目を輝かせてファナちゃんのプレゼントを
探していたことでしょう。
あとは、アベルを虐めるトランディスと、飲んだくれトレスが書きたかっただけです。
以上(え)。
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