会議の内容が内容なだけに、こうでもしてはいられないようだ。
それを領主に決めさせるとはね」 「俺もそう思いました。その上、即行で反対するはずのクレアが賛成したのですから、 周りもそれを認めざるを得ないでしょう」
トランディスもため息をついて、コーヒーを口に運ぶ。 クレアの起こした行動に、いささか不服そうでもある。
「どうしてです?」 「それを当てるのが君の役目だよ、トランディス」 「……本当、そうやって探らせようとするのが得意ですね、師匠は」 「弟子に試練を与えるのは当然であろう」 どこか満足そうな笑みを浮かべるウィリアムに、トランディスは苦笑しながらも、 彼が与えた問題の解答を探り始める。 危険要素はたくさんある。 テロリストの主犯格が、両領主のどちらかかもしれない、というのがあるからだ。
両者が手と手を取り合って真犯人を捕まえたとなれば、 2人は陛下に自分達の存在を認めてくれる、絶好のチャンスになる。
「まあ、そういうことだ。あとは、クレア君とピエトロ君のお手並みは意見、と、いきますか」
トランディスはふとそう思ったが、 違ってからかわれるのも癪に障るので、発言するのをやめてしまった。
「うっ!!」
その代わりおもいっきり咽始めた。 突然の質問に、一瞬戸惑っているようにも見える。
「いえ、そういう意味じゃなくて、突然すぎます」 「そうかね? 近頃、こちらでも姿が見えないので心配になって聞いただけなのだが」
トランディスと同じくして、「リフレクト」を卒業し、 しばらくはウェステルにいるルシアが働いていたパブにいたのだが、 ここ数日、姿が見えないとのことだった。 店長に聞けば、彼女は店を止めて、ウェステルへ向かったという情報を入出したとか。
「何で俺に聞くんですか?」 「何でって、君とアスト嬢は幼馴染みではないか。幼馴染みに何も言わずにウェステルへ 向かうわけないだろう」
そう思いながらも、ウィリアムの発言は決して間違っていないため、 トランディスも1つ咳払いをして、正直に白状することにした。
からね。あちこちに引っ張りだこですよ」 「女性なのに用心棒だとは、アスト嬢も大変だねえ」 「本人、あまり苦になってないようですけどね」 平然とした顔で、ダンサーに絡まる酔っ払い達を追い出すアストの姿を想像し、 トランディスは思わず苦笑してしまう。 しかしルシアとしては、人手も丁度足らなかったのだから都合が良かったと言い、 時にカウンターの仕事を任せることもあるようだ。 「なるほど、これで無事に解明したよ」 「何がです?」 「君の夜遊びの数が減った理由だよ。社交界に行く度に、貴婦人達に君のことを聞かれてね。 僕は君専属の執事でも何でもないのだから、いい迷惑だよ」 「だからって、俺にどうしろと言うのです? 社交界の日に都合が悪かった。それでいいだけの話 じゃないですか」 「それだけではないような気もするのだがね。ローグも、あっさりと断られたと言っていたよ」 「あの人は、どこまで話しているんだか……」
ウィリアムとは旧知な仲だ。 正確はトランディスとは正反対と言ってもいいほどの生真面目で、 曲がっていることを極度に嫌う人物でもある。
「何を安心すればいいのか分からないが、とりあえずそういうことにしておこう。……で、 アスト嬢とはうまくいっているのかね?」 「ご想像にお任せしますよ」 意味深に微笑むトランディスに、ウィリアムはなかなか素直にならない弟子に少々呆れながらも、 どこか楽しそうな顔をして、テーブルの上にある紅茶を口に運んだのだった。
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トランディスと教授の会話も、書くのがすごく楽しいです。
きっとトランディスが皇帝区に来るたびに、カフェで情報交換とかしてるんじゃないかと思い、
会議の後ということもあって書いてみました。
アストの話が出てきますが、実際に本編に出て来るのは、もう少し後の話です。
今回も「セイレーネス」のシーンはありますが、働いてはいますが登場しません。
もう少しお待ちくださいませ。
一度、トランディスの焦った顔を見てみたい(え)。
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