「ねえ、トランディス」 「言うな、クレア。分かってる」 いつもの場所で、いつものように情報交換をして、 そしていつものように同じ視線を感じる。 気にならないわけではない。 だが、誰なのか分かっているため、特に気にしていない。 しかし、あまり強すぎると無視することが出来なくなる。 「相変わらず、焼きもち焼きさんなのね」 「ナイトロードは分かるが、何でアストもなんだ?」 「またそう、すぐにはぐらかすんだから」 「それが将校らしいのよ、クレア」 「そうかしら?」 ルシアが2人分のウィスキーのロックを用意するのもいつものこと。 そして、クレアとトランディスがそれを手に乾杯して煽り始めるのもいつものことだった。 「ま、じきにナイトロードが乱入してくるんじゃねえのか?」 「その前に、レオンあたりがあなたを誘いに来るんじゃなくて? ほら、もう少しで始まるし」 「俺より、イクス兄弟に知らせた方がいいような気もするがな」 次のステージの準備する様子を見ていたが、何かを目撃したらしく、 すぐに視線を戻す。 そんな彼の姿に、クレアとルシアは思わず首をかしげた。 「どうしたの、トランディス?」 「合った」 「何が?」 「目が」 「誰の?」 「分かっているくせに聞くな!」 どことなく焦っている姿に、女大佐と酒場の店主は何のことか分かり、 思わずクスクスと笑い始めた。 そんな2人を、トランディスは苦笑しながら見つめ、ウィスキーを喉に通した。 「ま、詳しい話は済んだから、そろそろ行ってあげたら? 私もいい加減、相手してあげないと可哀想だし」 「まるでペットみたいな扱いだな」 「あら、そんな風に聞こえたかしら?」 「だとさ、ルシア」 「クレアらしいと言えば、クレアらしいわね」 自分のグラスを掴み、その場から立ち上がるトランディスを、 クレアは手を振って見送った。 それを確認するかのように、店の隅で隠れていた待ち人がコソコソとやって来て、 当たり前のようにクレアの隣に腰掛けた。 「少しはゆっくり話させてくれてもいいんじゃなくて、アベル?」 「それってまるで、私が邪魔しているようじゃないですか」 「現に邪魔しているじゃない。そんなに気になるの?」 「あ、当たり前じゃないですか! だって、トランディスさんは情報将校ですし、誰よりも社会の事情 「それだけじゃないでしょうに」 呆れたように、煙草を取り出して、お気に入りのジッポで火をつける。 口から吐かれた白い煙が、静かに上へ上がっていく。 その行き先を目で追っかけていると、店の光が弱まり始めた。 「さて、歌姫さんと踊り子さんの登場、ね」 クレアはそう言ってグラスを上げると、それを口に運んだ後、 視界をステージへと動かしたのだった。 |
初期に書いた話ですので、いろんなものが混ざってます。
そして、本編より先にアスト登場です(汗)。
構図的には、クレアがトランディスの報告を聞いていて、
それを後ろから、密か(じゃないけど)にトランディスが好きなアストと、
トランディスに妬きもちを妬くアベルが見つめている、というものです(笑)。
書いたら書いたで、かなり楽しかったです。
また書いてみたいものです。
あ、でも次に書く時は、ちゃんと本編で書こう(汗)。
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