ウェステルの中で頂点に君臨する者のところであった。
「恐縮です、スフォルツァ中将」
深く頭を下げている。 その光景を、アベルとクレア、トランディスは少し離れた位置で見守っていた。 「2人とも、顔をお挙げなさい。――ああ、そうそう。2人に何か飲み物を」 「私達のことはお気になさらず。慣れておりますので」
いつもなら、少し水分を取った後にクレア達の所へ向かうことを知っているからだ。
そして、早速交渉へと入ろうとする。
「はい、存じております」 「それなら話は早いわ。――2人に、陛下の前で同じステージを披露して欲しいのです」
そんなクレアを支えるように、アベルがそっと彼女の手を繋いだ。
「心配することなんてありませんよ、クレアさん」
それでもクレアを励まそうとするアベルの気持ちが痛かった。
だからこそ、それを阻止しなくてはならない。 クレアは握っていたアベルの手を強く握り返すと、目を鋭くして、その場を見つめる。
ただそう聞こえただけなのであろうか。
「――駄目よ、キリエ!」
「やけに反対するのですね、キース大佐。もしかして、今回の脅迫状は、 「な……っ! 何てことをおっしゃるのですか、スフォルツァ中将! それじゃ、何ですか? 「少し落ち着いた方がいいです、キース大佐」
そしてスフォルツァ中将の前へ踊り出て、2人の前に頭を下げた。
「家族?」 「はい。ここにいるイシュトー姉妹は、前ウェステル陸軍大佐、ヴァーツラフ・ハヴェル大佐の姪御にあたる者達です。
だが何かを納得したように、軽く頷く。 そしてクレアの方を見て、謝罪の言葉を送る。
きっと今、この顔を鏡で見たら、自分でも驚くことであろう。
「無駄にしたくないのであれば、わざわざ2人を危険な目にあわせなくてもいいのでは……」 「キース大佐」
後ろにいるリエルは、どこか震えているようにも見える。
「リエル……」
だがそれでも、クレアにはリエルの気持ちが痛いほど伝わってきた。
「ええ、勿論。2人で一緒に、誕生祭へ参加致します」 「ありがとう、2人とも。――聞きましたか、キース大佐? これで、私の意見も受け入れやすく
そして共に来た軍人達と共に、扉へ向かって歩き始めた。
「恐縮です、中将。道中お気をつけて」 「ありがとう。――ああ、そうそう。カイン元大佐によろしく伝えておいて下さいね」 「畏まりました」
ルシアは頭を下げて、彼女達を送った。 そして扉が閉まるなり聞こえたガラスの音に、すぐさま反応した。
「落ち着けるわけないでしょう!? こんなやり方、卑怯すぎるわよ!!」 「卑怯なのは分かってるが、相手の出方を把握しておきながら、対策をちゃんと練らなかったお前にも 「そうだけど……!」 「とりあえず、落ち着きなさい、クレア。キリエ、リエル。あなた達は今日は部屋に戻りなさい。
カウンターの横にある階段へ向かって走り出す。 2人の姿が見えなくなったのを確信すると、ルシアはカウンターに座るクレアに、 冷たい水を差し出した。
クレアは思わずルシアを鋭く睨みつけてしまう。
「だったら、別にこの機会を使わなくてもいいじゃない」 「あら、この機会を失ったら、今度はいつになるって言うの? あの子達は、そう簡単に許可書が下りない立場。
皇帝区へ行く許可書が下りるかどうかと聞かれて、 出来るとはすぐに答えられないことぐらい、クレアにもよく分かっている。 これが、絶好のチャンスなのだ。
「トランディスさんの意見も分かりますが、クレアさんは2人の身の心配を……」 「分かってる。だから、交換条件を出せばいいんだ」 「交換条件?」
だがその内容は、誰もが納得いくようなもので、思わず大きく頷いてしまうほどだ。
「それは構わないけど、それでも不安要素はあるわ」 「立入れる範囲が決められていたら、こちらとしても困りますしね」 「その辺は、何とか交渉すれば問題ないだろう」
クレアはどこからその余裕が生まれるのかと疑問に思う。
「何で私が、周りに指示されないといけないのよ? 決断を下すのは私よ? 私の意見はどうでもいいってことなの?」 「誰もそんなことは言ってない。――何なら、俺も一緒に行くか?」 「なら、私も一緒に行きます!」 「お前は宿舎に残っていろ。イシュトー姉妹が行くことが決まって、突然客人が現れるかもしれないからな」 「またそうやって、私をのけ者にするんですか!?」 「のけ者だなんて、酷い言い草だな。大丈夫だって。横取りなんてしないから」 「だ〜れが横取りですって〜〜!!!」 「2人とも黙りなさい!!!」
クレアは両手をカウンターに叩きつけながら、勢いよく立ち上がる。 そして水を一気に飲み干すと、そのまま席を立った。
その姿を見つめながら、残されたアベルとトランディスは、 思わずルシアの方を見つめる。
「俺は何もしてない。ナイトロードが反論するからいけないのだろう」 「私のせいにするんですか!? それにルシアさんだって、クレアさんに無理やり了解させるようなことを 「だって、もうこれは決定事項なんですもの。さっさと決断してもらわないと、こっちの身が持たないわ」 「そんな、無責任なことを……」 「まあ、とりあえず明日、クレアを連れて中将のところへ行くから、お前は宿舎でオロシーニが来るのを待ってろ」 「どうせ私は、いつも留守番……って、どうしてそこにオロシーニ大佐が出てくるのですか?」 「それは、明日になれば分かる」
アベルはただ首を傾げるだけで、 ルシアは上にいる2人のことを心配しながらも、トランディスにスコッチを差し出したのだった。 |
別名「クレアvsカテリーナ、トランディス途中参加、ルシア追い込み」です(何だよ、それ)。
イシュトー姉妹は断るのが苦手なような気がします。
なので、無理してまで受けてしまうイメージがあります。
なぜだろう? なぜかしら?
そしてクレアがかなりお怒りですが、軍パロのクレアはキレやすいので、扱いにくいです(汗)。
正義感が強すぎるのもどうだか……。
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